第6章(2)
ラームじいさんは非常に賢い男である。初めて彼からタバコを一箱買った時、ジョティ ボス(政治家)は馬鹿だと彼は言った。彼はまた、ネルーの部下たちがシャマパド ムケルジー(おなじく政治家)に毒を食べさせて暗殺したとも言った。ラームじいさんはそんなことを知っている。1931年にガンジーがヴァルドマン(シャンティニケタンの近く)に来た時、彼はガンジーも見た。
アショク食堂に着いた時、何か不穏なことが起こっていた。アショク パルの3人の子供全員が、雌牛の近くに一列に立っていた。彼らはびっくりして正気を失っているようだった。ラームじいさんは食堂横の彼のタバコ屋の中にいなかった。長いベンチが一つ、地面にひっくり返されていた。よく実の付いたバナナの房も、血の付いた竹竿のわきの地面に横たわっていた。
「パレーシュ!パレーシュ!」
びっくりして正気を失っているようにみえる3人の子供以外に誰も見えないので、私は大声で呼んだ。普通なら、この時間は少なくとも10人以上の学生がここで昼食をとっており、アショクと、彼の妻と、アショクの助手パレーシュは、料理に、給仕に、皿洗いに、そして政治論議に忙しくしている。そしてラームじいさんのラジオか、彼のおしゃべりのどちらかが聞こえているはずだ。
今日はそれが全くひっそりしていた。
「パレーシュはどこ?」
と一番上の子に尋ねた。
「逃げた」
と一番下の子が答えた。
「逃げた? 何故? どこへ?」
その時、3人の子供全員が同時に話し始めた。私の方に来て、自転車の周りに集まった。一番下のが、いつもするように素早く荷台にのぼった。
「一度に一人ずつ、そしてゆっくり言いなさい」
「パレーシュがこの竹竿でおばあちゃんの頭をぶった。おばあちゃんの頭が割れた。そんで父ちゃんたちが病院に連れて行った。パレーシュは逃げてちゃった、もしおばあちゃんが死んだら、警察に捕まえられて、牢屋に入れられるから」
アロープは利口な子である、話に筋を通すことが出来る。
「でも、どうしてパレーシュがおばあちゃんをぶったんだ? あいつとてもおとなしい奴じゃないか」
「おばあちゃんが、母ちゃんに大きな石を投げた。それでパレーシュがぶったんだ」
アショクの妻と母親があまりうまくいってないことは知っていたが、なぐりあいとは思ってもみなかった。それにパレーシュ! タゴールの詩に述べられているやさしい少女の誰よりも穏やかなパレーシュが、70才の老女の頭を強くぶって、今にも死なせんばかりにすることが出来る。
人は人間の本性について何も知らないと感ずる時がある。これは、確かにその一つである。
子供達からもっと詳しいことを聞こうとしていた時、ラームじいさんが角を回ってのっそりやって来た。
「ダドゥ、おはよう」
いつもと変わらず元気よく挨拶した。私は彼の息子のアショクより若いけれど、彼と同じ地位を意味するために私をダドゥ(「じいさん」の意味)で呼びたいのだ。
「ラームじいさん、ここで何が起こっていたんです?」
「あー、別になにも。女はこの世のすべてのもめごとの原因だって昨日言わなかったかな? 例えば、ママタ バナルジー(有名な舞踊家)」
「ママタ バナルジーは忘れて。奥さん、ひどく怪我してるんですか。あなた今病院からの帰りなんですか?」
ラームじいさんは例の歯のない微笑みを見せた。彼の写真を撮ったことがある。微笑むとガンジーによく似ている。
「ダドゥ、わしはあんたがわしの奥さんと呼ぶ女に、この30年一言も口をきいてない。なんで病院に会いに行くべきなのかね? わしが病院に行く時は死ぬ時だけ。その外は決して病院に行かない。息子や嫁、あるいはあんたが奥さんと呼ぶあの年老いた魔女のような腹黒い奴らのことを心配して時間を無駄にしなさるな。これまでにもう十分もめごとを起こしてもらったから、彼らのことを1秒でも考えて残りの人生を無駄にしたくないんだよ。あんたはいい人だ。小説家だ。あんたに女について警告したけど、あんたは弱かった。あの日本人に抵抗出来なかった。初めてあんた達2人が一緒にいるのを見た時、2人がチャウライ(密造酒)を飲みにサンタル(土着の民)の家に行った時、ああダドゥは罠にかかった、と思ったね」
「あなたはリサが好きではない。でもラームじいさん、彼女は大丈夫ですよ」
「はじめは、みんな大丈夫なんだ。男の周りを可愛く走りまわり、男がしたいことは何でもしてくれる。ゆっくりと牙をむくんだ。とにかく女のことは忘れるとしよう。新聞をみたかね。東ベンガルが2ゴールの差で負けた、1ゴールではなくて2ゴールだ。いまいましい馬鹿者だ。彼らは練習などしたくない。映画スターと過ごしたいのだ。映画スターと過ごしたいのならサッカーはできない」
パレーシュのことが心配になったけれど、東ベンガルが1ゴールではなく、2ゴールの差で負けた詳細を聞くまでは動けなかった。
アショク食堂に着いた時、何か不穏なことが起こっていた。アショク パルの3人の子供全員が、雌牛の近くに一列に立っていた。彼らはびっくりして正気を失っているようだった。ラームじいさんは食堂横の彼のタバコ屋の中にいなかった。長いベンチが一つ、地面にひっくり返されていた。よく実の付いたバナナの房も、血の付いた竹竿のわきの地面に横たわっていた。
「パレーシュ!パレーシュ!」
びっくりして正気を失っているようにみえる3人の子供以外に誰も見えないので、私は大声で呼んだ。普通なら、この時間は少なくとも10人以上の学生がここで昼食をとっており、アショクと、彼の妻と、アショクの助手パレーシュは、料理に、給仕に、皿洗いに、そして政治論議に忙しくしている。そしてラームじいさんのラジオか、彼のおしゃべりのどちらかが聞こえているはずだ。
今日はそれが全くひっそりしていた。
「パレーシュはどこ?」
と一番上の子に尋ねた。
「逃げた」
と一番下の子が答えた。
「逃げた? 何故? どこへ?」
その時、3人の子供全員が同時に話し始めた。私の方に来て、自転車の周りに集まった。一番下のが、いつもするように素早く荷台にのぼった。
「一度に一人ずつ、そしてゆっくり言いなさい」
「パレーシュがこの竹竿でおばあちゃんの頭をぶった。おばあちゃんの頭が割れた。そんで父ちゃんたちが病院に連れて行った。パレーシュは逃げてちゃった、もしおばあちゃんが死んだら、警察に捕まえられて、牢屋に入れられるから」
アロープは利口な子である、話に筋を通すことが出来る。
「でも、どうしてパレーシュがおばあちゃんをぶったんだ? あいつとてもおとなしい奴じゃないか」
「おばあちゃんが、母ちゃんに大きな石を投げた。それでパレーシュがぶったんだ」
アショクの妻と母親があまりうまくいってないことは知っていたが、なぐりあいとは思ってもみなかった。それにパレーシュ! タゴールの詩に述べられているやさしい少女の誰よりも穏やかなパレーシュが、70才の老女の頭を強くぶって、今にも死なせんばかりにすることが出来る。
人は人間の本性について何も知らないと感ずる時がある。これは、確かにその一つである。
子供達からもっと詳しいことを聞こうとしていた時、ラームじいさんが角を回ってのっそりやって来た。
「ダドゥ、おはよう」
いつもと変わらず元気よく挨拶した。私は彼の息子のアショクより若いけれど、彼と同じ地位を意味するために私をダドゥ(「じいさん」の意味)で呼びたいのだ。
「ラームじいさん、ここで何が起こっていたんです?」
「あー、別になにも。女はこの世のすべてのもめごとの原因だって昨日言わなかったかな? 例えば、ママタ バナルジー(有名な舞踊家)」
「ママタ バナルジーは忘れて。奥さん、ひどく怪我してるんですか。あなた今病院からの帰りなんですか?」
ラームじいさんは例の歯のない微笑みを見せた。彼の写真を撮ったことがある。微笑むとガンジーによく似ている。
「ダドゥ、わしはあんたがわしの奥さんと呼ぶ女に、この30年一言も口をきいてない。なんで病院に会いに行くべきなのかね? わしが病院に行く時は死ぬ時だけ。その外は決して病院に行かない。息子や嫁、あるいはあんたが奥さんと呼ぶあの年老いた魔女のような腹黒い奴らのことを心配して時間を無駄にしなさるな。これまでにもう十分もめごとを起こしてもらったから、彼らのことを1秒でも考えて残りの人生を無駄にしたくないんだよ。あんたはいい人だ。小説家だ。あんたに女について警告したけど、あんたは弱かった。あの日本人に抵抗出来なかった。初めてあんた達2人が一緒にいるのを見た時、2人がチャウライ(密造酒)を飲みにサンタル(土着の民)の家に行った時、ああダドゥは罠にかかった、と思ったね」
「あなたはリサが好きではない。でもラームじいさん、彼女は大丈夫ですよ」
「はじめは、みんな大丈夫なんだ。男の周りを可愛く走りまわり、男がしたいことは何でもしてくれる。ゆっくりと牙をむくんだ。とにかく女のことは忘れるとしよう。新聞をみたかね。東ベンガルが2ゴールの差で負けた、1ゴールではなくて2ゴールだ。いまいましい馬鹿者だ。彼らは練習などしたくない。映画スターと過ごしたいのだ。映画スターと過ごしたいのならサッカーはできない」
パレーシュのことが心配になったけれど、東ベンガルが1ゴールではなく、2ゴールの差で負けた詳細を聞くまでは動けなかった。
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