第11章(1)
「インドのような国々では、人々は絶えず人生の崖っぷちに住んでいるようなものね。病気とか失業あるいは結婚させるべき娘とか。中流階級から容易にすべり落ちて、道で生活するようになる。オーストラリアでは、人はそれほど不安定に生きなくてもいいのよ。社会保障ってものがあるからね」
ジャスティンはシドニーで人類学を専攻した。小説を書くのが彼女の夢である。
「君の国では、政府が神の役を演じているってことだね?」
私は穏やかに尋ねた。
「人々が神の役を集団で演じているのよ」
とジャスティンは言った。
「そして、神の役が演じられるために市場を探し続けなければならないってわけね」
リサには社会主義的傾向がある。
「オーストラリアは、武器やコカコーラや馬鹿みたいな暴力映画は輸出しないわ」
ジャスティンは反アメリカ主義者である。
「ええ、だけどあなたたちは牛肉を輸出してるじゃない。日本で肉を食べ始めたのは、オーストラリアからの押しつけがましい牛肉輸出のせいだわ」
リサは菜食主義なのだ。
「過去40年にあなた達日本人の背が高くなり、強くなったのはそのおかげよ」
「日本人が本当に背が高くなりたがっていたのかどうか、誰か聞いてみたことあるの? 肉食をするようになったおかげで日本人が薄っぺらになっちゃったわよ」
「事を少し大げさにし過ぎているんじゃないの。もし、攻撃的な市場開発が今日の問題のすべてだというのなら、日本こそ第一番に告発されるべきだと思うけど」
リサは電話に出るためにリビングルームを出て行った。ジャスティンは期待の目で私を見た。
「日本の女と結婚してるからというだけで、私が日本の側に立って話すとは思わないでくれよ」
と言った。
「わかってるわ、だけど、あなたはいつもアジア人としてものを考えるでしょう? 白人はあなたたちの美しい文化を破壊したって」
「僕は何も考えないよ。アーリア人が中央アジアのどこからかインドに下りて来て、その同じアーリア部族の他の人々がヨーロッパに上がって行ったという有力な説がある。だから僕は、5千年前インダス川流域にやって来て、そこの原住民を奴隷にした白人の子供かもしれないよ」
「とにかく、食物を輸出することが罪であるはずがないわ。農夫が余剰物を売るのは自然なことよ。それだから、そのお金で別の必需品を買うことが出来る。私達は、世界を支配しようとかそんなことを考えるような人間じゃないわ」
ジャスティンは愛国主義者であり、あくまでもオーストラリアの国旗を握っている。
「物事全体がやり過ぎになるということはあると思う。その時、成長率の問題や景気後退や失業という妖怪が偏在するという問題が出始めるんだろうね」
「じゃあ一体あなたは他にどんな道があると思うの?」
「皆がその問を自問しているんじゃないのかい?」
「はぐらかさないで、本当に知りたいの」
「言えたらと思うけど、それは全くの不透明だよ。私はもっと多くのことを知る必要がある。むしろ糸口を掴み始める前に、もっと、もっと生きる必要がある。それでねジャスティン、私は恐いんだ、と言うのは、学べば学ぶほど興味という興味をすべて失ってしまうような気がするから」
「あなたは物事を難しくしたいのね?」
「ご名答」
「魂の問題はどう? 宗教は?」
「その二つは全く別物で、ほとんどその間に関係がない。ジャスティン、これははっきり言えるよ」
「そうね、わかるわ。じゃあ魂についてだけ。それがこの世の問題を解決すると思う?」
「ジャスティン、君はすごいよ。僕のことを高く評価してくれてるみたいだけど、後生だ、知らないんだよ。君と同じような普通の人間なんだ。たくさんの欲求を持っている。欲求とか疑いを」
「彼はごく普通の男よ。そんな事柄について意見を求められると、とても困惑するの。男たちは絶対の確信を得るまでは、実際、何についても決して話すことが出来ないのよ。冗談で済ますか、黙るんだわ」
リサはリビングに戻って来た。
ジャスティンはシドニーで人類学を専攻した。小説を書くのが彼女の夢である。
「君の国では、政府が神の役を演じているってことだね?」
私は穏やかに尋ねた。
「人々が神の役を集団で演じているのよ」
とジャスティンは言った。
「そして、神の役が演じられるために市場を探し続けなければならないってわけね」
リサには社会主義的傾向がある。
「オーストラリアは、武器やコカコーラや馬鹿みたいな暴力映画は輸出しないわ」
ジャスティンは反アメリカ主義者である。
「ええ、だけどあなたたちは牛肉を輸出してるじゃない。日本で肉を食べ始めたのは、オーストラリアからの押しつけがましい牛肉輸出のせいだわ」
リサは菜食主義なのだ。
「過去40年にあなた達日本人の背が高くなり、強くなったのはそのおかげよ」
「日本人が本当に背が高くなりたがっていたのかどうか、誰か聞いてみたことあるの? 肉食をするようになったおかげで日本人が薄っぺらになっちゃったわよ」
「事を少し大げさにし過ぎているんじゃないの。もし、攻撃的な市場開発が今日の問題のすべてだというのなら、日本こそ第一番に告発されるべきだと思うけど」
リサは電話に出るためにリビングルームを出て行った。ジャスティンは期待の目で私を見た。
「日本の女と結婚してるからというだけで、私が日本の側に立って話すとは思わないでくれよ」
と言った。
「わかってるわ、だけど、あなたはいつもアジア人としてものを考えるでしょう? 白人はあなたたちの美しい文化を破壊したって」
「僕は何も考えないよ。アーリア人が中央アジアのどこからかインドに下りて来て、その同じアーリア部族の他の人々がヨーロッパに上がって行ったという有力な説がある。だから僕は、5千年前インダス川流域にやって来て、そこの原住民を奴隷にした白人の子供かもしれないよ」
「とにかく、食物を輸出することが罪であるはずがないわ。農夫が余剰物を売るのは自然なことよ。それだから、そのお金で別の必需品を買うことが出来る。私達は、世界を支配しようとかそんなことを考えるような人間じゃないわ」
ジャスティンは愛国主義者であり、あくまでもオーストラリアの国旗を握っている。
「物事全体がやり過ぎになるということはあると思う。その時、成長率の問題や景気後退や失業という妖怪が偏在するという問題が出始めるんだろうね」
「じゃあ一体あなたは他にどんな道があると思うの?」
「皆がその問を自問しているんじゃないのかい?」
「はぐらかさないで、本当に知りたいの」
「言えたらと思うけど、それは全くの不透明だよ。私はもっと多くのことを知る必要がある。むしろ糸口を掴み始める前に、もっと、もっと生きる必要がある。それでねジャスティン、私は恐いんだ、と言うのは、学べば学ぶほど興味という興味をすべて失ってしまうような気がするから」
「あなたは物事を難しくしたいのね?」
「ご名答」
「魂の問題はどう? 宗教は?」
「その二つは全く別物で、ほとんどその間に関係がない。ジャスティン、これははっきり言えるよ」
「そうね、わかるわ。じゃあ魂についてだけ。それがこの世の問題を解決すると思う?」
「ジャスティン、君はすごいよ。僕のことを高く評価してくれてるみたいだけど、後生だ、知らないんだよ。君と同じような普通の人間なんだ。たくさんの欲求を持っている。欲求とか疑いを」
「彼はごく普通の男よ。そんな事柄について意見を求められると、とても困惑するの。男たちは絶対の確信を得るまでは、実際、何についても決して話すことが出来ないのよ。冗談で済ますか、黙るんだわ」
リサはリビングに戻って来た。
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