第14章(3)
「君が何を嫌がっているのか察するのは難しすぎるよ。ジョンも美子に関して同じような問題を抱えている。彼はもうあきらめたいと今朝電話で言ってたよ」
「あなた、本当に知りたいの?」
「うん、何よりもね」
「私はあなたに女になってほしいの」
「何だって?」
「そうなの、あなたの男性器はそのまま残ってていいんだけど、他のすべての点で女のようになってほしいのよ」
リサを私の膝に座らせて、軽い調子でしゃべっていた。それでも、これらの言葉の意味があまりに重要なので無視出来なかった。
男は粗野だ、と言うのが彼女の意見である。愛し合っている間、ほんの小さな微かな攻撃性でも、それが見えると、リサは即座に冷えてしまう。一つ一つの動きがとてもゆっくりなされなければならないし、それらが彼女に100パーセント受け入れてもらえるものかどうかを確認しながら進んで行かなければならない。抱き締めないで、ただ柔らかく愛撫するだけ。突っ込むのではなくて、ただ、するりとすべり込むだけ。言ってみれば唇がそれを吸い込むという感じでなければならない。とにかく文句を言うことは出来ない。私はそれが好きだし、私は彼女が好きなのだ。
そして、セックスを通してどんなごまかしも試みてはいけない。意識下でさえも。男が粗野であることを自ら悟り、それを止めることがすべての望みであり、願いなのである。
アジアは女のようで、ヨーロッパは男のようだ。これはリサの好きな信念の一つである。
「日本は、西洋の考え方を取り入れ始めてから、惨めになったわ。誰もが年がら年中ストレスの中にいる。誰も考えたり感じたりする時間がない」
「でも日本が成功したからこそ、今日誰もが日本に一目おいてるんじゃないか。西洋的なものを取り入れて成功したんだよ」
「何故あなたは成功とか、認められることをそれほど強調するの。テレビに出てくる大統領やテニスのチャンピオンのような、いわゆる成功した人たち。彼らの誰一人として私には幸せそうに見えないわ。認められるのに忙しすぎる。動物は認められなくたって幸せに生きられる。木は、誰かに見られようとそうでなかろうと幸せだわ」
そんな議論は以前に聞いたことがあるし、滅多にそれに感動したことはなかった。そういう理論家の大半は書いた物を有名な新聞や雑誌に発表したがっている。リサは違う。心からそう思っているのかもしれない。
私達が一緒に歩く時、真っ直ぐに歩くことは決してできない。私が何か独創的なことを雄弁にしゃべっているというのに、リサは「あっ」と言って、傍らの家の塀を這っている虫をよく見ようと走り出す。
猫はもっと困り者である。リサは駐車してある車の下に座っている猫まで感知することが出来る。そして、それに挨拶するために道の真ん中にしゃがみ込まなければならないのだ。そんなことがごく日常的に起こる。短いスカートに私の目が行ってしまうのと同じように。
私にとって、葉っぱはすべて緑であり、木は周りにあると気持ちがいい、しかし、それ以上の何物でもない。リサの場合、それはもう少し本質的な何かである。私が彼女と生きることによって少しでもそのおこぼれを頂戴できればと願う何かである。
彼女は、他の者同様、少し変にもなり得る。会った当初、夕陽を見逃した時は眠れないと言っていた。「赤い黄金の光が、私の股の間に真っ直ぐ入ってくる」のだと。
リサはその頃、ベンガルのタントラ修業者の一派に興味を持っていた。このタントラ修業者は連続的な、途切れることのない性交を行ずる。彼らの目標は、女が持つ複数のオーガスムを通してクンダリニーを目覚めさせることにある。
数ケ月にわたる規則的で健全なセックスの後、リサは落ち着いた。しかし、同時に虚無感がある。目標の不在である。
「大学やセミナーが全く無意味に感じるの。教授が教えることや、学生が討論することは、あまりにも初歩的で現実からかけ離れているみたいで、何かすべて時間の無駄じゃないかと思い始めたの」
「チェンバロをまた始めたらどうだ」
「それも考えたけど、今は何も重要でないように思えてしまう。駆り立てるような衝動が、もうないのよ」
「あなた、本当に知りたいの?」
「うん、何よりもね」
「私はあなたに女になってほしいの」
「何だって?」
「そうなの、あなたの男性器はそのまま残ってていいんだけど、他のすべての点で女のようになってほしいのよ」
リサを私の膝に座らせて、軽い調子でしゃべっていた。それでも、これらの言葉の意味があまりに重要なので無視出来なかった。
男は粗野だ、と言うのが彼女の意見である。愛し合っている間、ほんの小さな微かな攻撃性でも、それが見えると、リサは即座に冷えてしまう。一つ一つの動きがとてもゆっくりなされなければならないし、それらが彼女に100パーセント受け入れてもらえるものかどうかを確認しながら進んで行かなければならない。抱き締めないで、ただ柔らかく愛撫するだけ。突っ込むのではなくて、ただ、するりとすべり込むだけ。言ってみれば唇がそれを吸い込むという感じでなければならない。とにかく文句を言うことは出来ない。私はそれが好きだし、私は彼女が好きなのだ。
そして、セックスを通してどんなごまかしも試みてはいけない。意識下でさえも。男が粗野であることを自ら悟り、それを止めることがすべての望みであり、願いなのである。
アジアは女のようで、ヨーロッパは男のようだ。これはリサの好きな信念の一つである。
「日本は、西洋の考え方を取り入れ始めてから、惨めになったわ。誰もが年がら年中ストレスの中にいる。誰も考えたり感じたりする時間がない」
「でも日本が成功したからこそ、今日誰もが日本に一目おいてるんじゃないか。西洋的なものを取り入れて成功したんだよ」
「何故あなたは成功とか、認められることをそれほど強調するの。テレビに出てくる大統領やテニスのチャンピオンのような、いわゆる成功した人たち。彼らの誰一人として私には幸せそうに見えないわ。認められるのに忙しすぎる。動物は認められなくたって幸せに生きられる。木は、誰かに見られようとそうでなかろうと幸せだわ」
そんな議論は以前に聞いたことがあるし、滅多にそれに感動したことはなかった。そういう理論家の大半は書いた物を有名な新聞や雑誌に発表したがっている。リサは違う。心からそう思っているのかもしれない。
私達が一緒に歩く時、真っ直ぐに歩くことは決してできない。私が何か独創的なことを雄弁にしゃべっているというのに、リサは「あっ」と言って、傍らの家の塀を這っている虫をよく見ようと走り出す。
猫はもっと困り者である。リサは駐車してある車の下に座っている猫まで感知することが出来る。そして、それに挨拶するために道の真ん中にしゃがみ込まなければならないのだ。そんなことがごく日常的に起こる。短いスカートに私の目が行ってしまうのと同じように。
私にとって、葉っぱはすべて緑であり、木は周りにあると気持ちがいい、しかし、それ以上の何物でもない。リサの場合、それはもう少し本質的な何かである。私が彼女と生きることによって少しでもそのおこぼれを頂戴できればと願う何かである。
彼女は、他の者同様、少し変にもなり得る。会った当初、夕陽を見逃した時は眠れないと言っていた。「赤い黄金の光が、私の股の間に真っ直ぐ入ってくる」のだと。
リサはその頃、ベンガルのタントラ修業者の一派に興味を持っていた。このタントラ修業者は連続的な、途切れることのない性交を行ずる。彼らの目標は、女が持つ複数のオーガスムを通してクンダリニーを目覚めさせることにある。
数ケ月にわたる規則的で健全なセックスの後、リサは落ち着いた。しかし、同時に虚無感がある。目標の不在である。
「大学やセミナーが全く無意味に感じるの。教授が教えることや、学生が討論することは、あまりにも初歩的で現実からかけ離れているみたいで、何かすべて時間の無駄じゃないかと思い始めたの」
「チェンバロをまた始めたらどうだ」
「それも考えたけど、今は何も重要でないように思えてしまう。駆り立てるような衝動が、もうないのよ」
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