Thinking Women

Written by Shashank Lele in 1994-5 Translated by Yoshida Mitsuko

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Location: 京都市, 京都府, Japan

July 24, 2007

第16章(1)

「大変なことになったの」

範子が東京から戻って来た。

「どうしたんだ?」

「大変なことになったの」

「ジャハンギールと寝たのか?」

「ちがう、ちがう、彼とじゃないの」

「彼とじゃないのか、え、じゃ別の誰かと? シンジラレヘーン、誰と?」

「電話じゃ話せないわ。明日の2時に行くわ」

明日というのは火曜日だった、範子は、リサが神戸へ出かけたちょうど30分後に来た。

彼女はとても興奮していた。

「私、恋してるの」

私達の部屋の畳に座ってすぐ宣言した。彼女は少し変わったように見えた。インドを去ってからほとんどずっと陰鬱だったのと反対に、今彼女は輝いていた。

範子の2日間の東京訪問は本当に波乱に富んでいた。最初の夜、彼女は50才の男とセックスをした。次の日の午後、ジャハンギールの愛の誘いを拒否し、その日の夕方また別の男と恋に落ち、結婚を誓った。

何が起こったのかを、おぼろげながらにも理解するには、私の側の超人的な忍耐と、範子の側のすさまじい言語的努力が必要だった。

「しかし、君が東京に行ったのは、ジャハンギールに会うためだと僕達は思ってたよ」

「そうよ、それと、私の前の先生にもね。彼には定期的に手紙を書いてるわ。とても親切なの、いつも返事をくれるわ」

「オーケー、だけど何故彼と寝たんだい?」

「頼まれたのよ」

「じゃあ範子さん、どうか僕と寝てください。そう、今すぐに」

「だけど、あなたは私を愛していないわ。つまり、私はあなたを愛していない。私はあなたのことお兄さんのように思ってるんだから」

「じゃ、その先生は? 父親のように思わないのか?」

「そう思うわ。もっともだわ。いつでも彼を尊敬してきた」

「じゃあ君、どうして彼とセックスしたの」

「要求されたのよ。私が大学を去ってから4年経っているのに彼は私のこと忘れたことがなかったのよ。毎日、私のこと思っていると言ってたわ」

「彼の妻と子供達は何処にいたんだ?」

「今休暇で北海道にいるわ」

「そんなことがどうして起こるんだ? 僕がそんなことを書いたら、人は僕が気が狂っていると言うだろうよ」

「説明するわ」

範子は大事件の詳細を私に話すことが何よりも好きなのだ。実は私はいつもその信憑性に確信がないのではあるが。

彼女はすべてを話す。彼が彼女に手で事を終えさせた正確な過程を。彼は酔っぱらいすぎてか、あるいは年齢のせいか、彼女の中で事を終えることが出来なかったのだ。

「分かるでしょう。握り具合、動かす速さ、私全部知ってるのよ、だけど彼には私が何も知らないように、私が純真無垢のように見せなければならない」

「本当? それはどうして?」

「もし少しでも興味がありそうにしたら、彼は私を嫌いになるわ」

「それが日本式作法かい?」

「そうそうそう、私のイメージが大切なの」

他の人にだったら、じゃ先生のイメージはどうなの、と尋ねるところだが、私は範子には最小限の質問しかしない。そうは思いたくないのだが、実は私自身が、彼女に心情よりもむしろ実際の行為の詳細を話させるようにしむけていたようだ。もまれている乳房や入ったり出たりするペニスに執拗にカメラの焦点を合わせた、安っぽいポルノ映画のように。

範子はその夜その先生の家に泊まった。朝、彼女が家を出る前にもセックスをした。彼は朝の方がうまくやれるようだった。

ジャハンギールは彼の友達と一緒だった。一日中、3人は東京をあちらこちらと動き回った。港に行き、人工島へフェリーで渡った。

ジャハンギールはその日中、範子の体のあちこちに触り、公園で1、2回キスを奪った。範子は公衆の面前で何かするのを嫌がる。彼女の着る物も常にとても大人しい種類のものである。くるぶしまでくるスカート、Tシャツ又は首と袖がきっちり閉まるブラウス。

範子はジャハンギールの友達が気に入った。明らかにジャハンギールよりカワイイ。そして彼の方がジャハンギ-ルよりもいい暮らしをしていた。昼食や交通費などは全部彼が払った。それに、範子が公衆の面前でしてもいいと感じる以上のことをジャハンギールがした時は目で彼女に同情を表した。

その夜、人工島から随分遅く帰った。ジャハンギールとその友達が地下鉄で家に帰るには遅すぎたし、範子が京都への列車に乗るにも遅すぎた。

それでホテルに部屋をとった。男の子たちは床に寝て、範子はダブルベッドに寝た。午前2時頃ジャハンギールは起き上がり、ベッドに入ってきた。範子は強く拒絶した。つかみ合いにこそならなかったが、結局は双方に硬いしこりが残ったのは確かだった。ジャハンギールの友達はこの間ぐっすり眠ってはいなかったが、紳士である彼はそのようなふりをしていた。

朝、ジャハンギールはすぐ家に帰った。友達は後に残った。範子にとっては朝の列車で京都に帰らなければならない理由はなかった。どっちみちその日は空いていたのだ。

それで今度は範子とジャハンギールの友達が、東京をあちらこちらと動ごきまわった。ジャハンギールの友達は範子のどこにも触ろうとしなかった。ただ、ずっと範子に恋をしていたけれど、ジャハンギールと結婚すると思っていたので今日まで言わなかったのだと繰り返し繰り返し範子に言った。

「驚きじゃない? どうしてそんなにたくさんの人が私に恋するの? 何故私なの? 私はただの普通の女の子よ」

(範子さん、君に恋していないけど、一緒に寝たい。君の脚の間にある粗い毛の黒い茂みを見て、触れたい。それがリサとの間に問題を引き起こすことは分かっているけど、クリトリスやら愛液やら、硬いペニスが穴へ強く押し込まれる時いつも感じるという痛みやらについて君と話した後、私は熱くなり過ぎている。君とやり、うめき、叫ばせ、終わった後、感謝感激の目で見てもらいたい)

この言葉が範子との会話中あまりに何度も私の心に浮ぶので、時々、もう言ってしまったのではないかとびくびくしてしまう。

実際、私が彼女に求めたことは、キスだけだった。ほっぺたならと彼女は言った。私は辞退した。沈黙と緊張が30秒間部屋を取り巻いたので、私は散歩に行こうと提案した。彼女は承知して、私達は通りに出た。一度戸外に出ると、何も起こらなかったかのように彼女は再び話し始めた。

しかし、このことが、それ以来ずっと、私を大いに苦しめてきた。近くのレストランでコーヒーを飲んでいる間、私は彼女に、先生の男根を躊躇なく吸うことが出来るのに、何故私のキスを拒んだのかと尋ねた。

「あなたが強引だったら、してたかもしれないわ」

と彼女は言った。

だが確かとは言えない。ふたりとも、その瞬間が去ったことを知っていたから、今、彼女はそのことで私を気遣ってくれたのかもしれない。彼女は私との友情を失いたくないのだ。私はこの世で恐らく彼女の唯一の友達だろう。何れにしても、私の苦悩の源は範子の私への返事ではない。苦悩の源は私の欲求そのものなのだ。

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