Thinking Women

Written by Shashank Lele in 1994-5 Translated by Yoshida Mitsuko

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Location: 京都市, 京都府, Japan
  • 白蝶日記
  • Bengal Report
  • Plants in Ayurveda
  • July 28, 2007

    ※1 この小説に出てくる人、場所、事件などは、もちろん全てフィクションです。

    ※2 この小説への感想やご意見などを、コメント欄に書き込んでいただければ
       たいへん嬉しいです。お気軽にどうぞ。

    July 25, 2007

    第16章(2)

    こんなことが何故いつも起こるのか? 母は、バターと火は別々にしておかなければならないと言う。バターは溶けざるを得ない。リサも、生物としての本能という面からのみ、これらの問題を扱う。

    バターのようでありたくない。これがずっと長い間私を悩ましていた。範子とのセックスは、ほとんど快感をもたらさず、荷馬車いっぱいの罪悪感をもたらすだろう、それでも…

    シャンティニケタンのあの男、ルパの父親に尋ねたことがあった、考えと行為は同じことかどうかを。カルマについて話していた。彼は尺度が異なると言った。駄目だ、私は尺度が重要でないことを知っている。ごく若かった時はそうだと思ったものだった。今はそれが意味のないことだと分かっている。

    思春期の間、マスターベーションしながら叔母たちや友達の母たちを空想していたことに強い罪を感じたものだった。成長するにつれ、その空想が同じ年の女たちに移行した。罪がいくらか減った。それでも魅力的な誰かに出会い、好ましいと思った時はいつでも、どんな動機で知り合ったかにかかわらず、同じ日の夜その人が心に浮かぶのだ。

    女たちとのかかわりすべてに、この問題をかかえた。夜、心の中で彼女らに何をするかを、私の振る舞いから悟られるようなどんな些細な手がかりをも与えまいと、いつも全努力を払った。そして恐るべきことに、ある特殊な女たちにはそれでも分かってしまうという感じをよく持ったのだ。

    友達は頭に映画スターを描いてした。決して出会わない人たちなのだ。同じようなことをしてみたが駄目だった。私の空想は実現するチャンスを持たなければならないのだ、もっともらしくなければならない。

    このため、考えと行為の間のギャップは狭かった。そして、罪の意識はいつも高かった。

    範子にキスを求めたことを思い出す時、突然、私とリサの父親の間に違いがないことに気が付いた。彼は電話でママにとても穏やかに話し、彼のところへ戻って来るようにした。ひどい振る舞いをしないと約束し、平静を失わないと約束する。そして彼女が信じて帰ってくると、髪の毛を掴んで頭を殴るのだ。

    範子には話せる友達が必要である。女の友達がいいだろう、その方が率直に話せる。

    いつも私は、範子が求める友達のように振る舞った。彼女の観点から見れば、年上の人。美しい女と結婚し幸せで落ち着いた男。私はゆっくりネジをゆるめた。少しずつだが、内的なことすべてを話すようにさせた。そして突然、飛びかかる、ちょうどリサの父親のように。

    私達は二人とも野蛮人である。平等に惨めな野蛮人なのだ。骨も肝もない。

    いや、もしかすると私は間違っているかもしれない。実は、範子は私に犯されたがっているのかもしれない。こうなるように無意識のうちに計画したのかもしれない。女というものは、往々にしてそういう傾向がある。しかし、何故かそれは重要でないように見える。とにかく私の心が透き通っていない。透き通っておらず、惨めなのだ。

    July 24, 2007

    第16章(1)

    「大変なことになったの」

    範子が東京から戻って来た。

    「どうしたんだ?」

    「大変なことになったの」

    「ジャハンギールと寝たのか?」

    「ちがう、ちがう、彼とじゃないの」

    「彼とじゃないのか、え、じゃ別の誰かと? シンジラレヘーン、誰と?」

    「電話じゃ話せないわ。明日の2時に行くわ」

    明日というのは火曜日だった、範子は、リサが神戸へ出かけたちょうど30分後に来た。

    彼女はとても興奮していた。

    「私、恋してるの」

    私達の部屋の畳に座ってすぐ宣言した。彼女は少し変わったように見えた。インドを去ってからほとんどずっと陰鬱だったのと反対に、今彼女は輝いていた。

    範子の2日間の東京訪問は本当に波乱に富んでいた。最初の夜、彼女は50才の男とセックスをした。次の日の午後、ジャハンギールの愛の誘いを拒否し、その日の夕方また別の男と恋に落ち、結婚を誓った。

    何が起こったのかを、おぼろげながらにも理解するには、私の側の超人的な忍耐と、範子の側のすさまじい言語的努力が必要だった。

    「しかし、君が東京に行ったのは、ジャハンギールに会うためだと僕達は思ってたよ」

    「そうよ、それと、私の前の先生にもね。彼には定期的に手紙を書いてるわ。とても親切なの、いつも返事をくれるわ」

    「オーケー、だけど何故彼と寝たんだい?」

    「頼まれたのよ」

    「じゃあ範子さん、どうか僕と寝てください。そう、今すぐに」

    「だけど、あなたは私を愛していないわ。つまり、私はあなたを愛していない。私はあなたのことお兄さんのように思ってるんだから」

    「じゃ、その先生は? 父親のように思わないのか?」

    「そう思うわ。もっともだわ。いつでも彼を尊敬してきた」

    「じゃあ君、どうして彼とセックスしたの」

    「要求されたのよ。私が大学を去ってから4年経っているのに彼は私のこと忘れたことがなかったのよ。毎日、私のこと思っていると言ってたわ」

    「彼の妻と子供達は何処にいたんだ?」

    「今休暇で北海道にいるわ」

    「そんなことがどうして起こるんだ? 僕がそんなことを書いたら、人は僕が気が狂っていると言うだろうよ」

    「説明するわ」

    範子は大事件の詳細を私に話すことが何よりも好きなのだ。実は私はいつもその信憑性に確信がないのではあるが。

    彼女はすべてを話す。彼が彼女に手で事を終えさせた正確な過程を。彼は酔っぱらいすぎてか、あるいは年齢のせいか、彼女の中で事を終えることが出来なかったのだ。

    「分かるでしょう。握り具合、動かす速さ、私全部知ってるのよ、だけど彼には私が何も知らないように、私が純真無垢のように見せなければならない」

    「本当? それはどうして?」

    「もし少しでも興味がありそうにしたら、彼は私を嫌いになるわ」

    「それが日本式作法かい?」

    「そうそうそう、私のイメージが大切なの」

    他の人にだったら、じゃ先生のイメージはどうなの、と尋ねるところだが、私は範子には最小限の質問しかしない。そうは思いたくないのだが、実は私自身が、彼女に心情よりもむしろ実際の行為の詳細を話させるようにしむけていたようだ。もまれている乳房や入ったり出たりするペニスに執拗にカメラの焦点を合わせた、安っぽいポルノ映画のように。

    範子はその夜その先生の家に泊まった。朝、彼女が家を出る前にもセックスをした。彼は朝の方がうまくやれるようだった。

    ジャハンギールは彼の友達と一緒だった。一日中、3人は東京をあちらこちらと動き回った。港に行き、人工島へフェリーで渡った。

    ジャハンギールはその日中、範子の体のあちこちに触り、公園で1、2回キスを奪った。範子は公衆の面前で何かするのを嫌がる。彼女の着る物も常にとても大人しい種類のものである。くるぶしまでくるスカート、Tシャツ又は首と袖がきっちり閉まるブラウス。

    範子はジャハンギールの友達が気に入った。明らかにジャハンギールよりカワイイ。そして彼の方がジャハンギ-ルよりもいい暮らしをしていた。昼食や交通費などは全部彼が払った。それに、範子が公衆の面前でしてもいいと感じる以上のことをジャハンギールがした時は目で彼女に同情を表した。

    その夜、人工島から随分遅く帰った。ジャハンギールとその友達が地下鉄で家に帰るには遅すぎたし、範子が京都への列車に乗るにも遅すぎた。

    それでホテルに部屋をとった。男の子たちは床に寝て、範子はダブルベッドに寝た。午前2時頃ジャハンギールは起き上がり、ベッドに入ってきた。範子は強く拒絶した。つかみ合いにこそならなかったが、結局は双方に硬いしこりが残ったのは確かだった。ジャハンギールの友達はこの間ぐっすり眠ってはいなかったが、紳士である彼はそのようなふりをしていた。

    朝、ジャハンギールはすぐ家に帰った。友達は後に残った。範子にとっては朝の列車で京都に帰らなければならない理由はなかった。どっちみちその日は空いていたのだ。

    それで今度は範子とジャハンギールの友達が、東京をあちらこちらと動ごきまわった。ジャハンギールの友達は範子のどこにも触ろうとしなかった。ただ、ずっと範子に恋をしていたけれど、ジャハンギールと結婚すると思っていたので今日まで言わなかったのだと繰り返し繰り返し範子に言った。

    「驚きじゃない? どうしてそんなにたくさんの人が私に恋するの? 何故私なの? 私はただの普通の女の子よ」

    (範子さん、君に恋していないけど、一緒に寝たい。君の脚の間にある粗い毛の黒い茂みを見て、触れたい。それがリサとの間に問題を引き起こすことは分かっているけど、クリトリスやら愛液やら、硬いペニスが穴へ強く押し込まれる時いつも感じるという痛みやらについて君と話した後、私は熱くなり過ぎている。君とやり、うめき、叫ばせ、終わった後、感謝感激の目で見てもらいたい)

    この言葉が範子との会話中あまりに何度も私の心に浮ぶので、時々、もう言ってしまったのではないかとびくびくしてしまう。

    実際、私が彼女に求めたことは、キスだけだった。ほっぺたならと彼女は言った。私は辞退した。沈黙と緊張が30秒間部屋を取り巻いたので、私は散歩に行こうと提案した。彼女は承知して、私達は通りに出た。一度戸外に出ると、何も起こらなかったかのように彼女は再び話し始めた。

    しかし、このことが、それ以来ずっと、私を大いに苦しめてきた。近くのレストランでコーヒーを飲んでいる間、私は彼女に、先生の男根を躊躇なく吸うことが出来るのに、何故私のキスを拒んだのかと尋ねた。

    「あなたが強引だったら、してたかもしれないわ」

    と彼女は言った。

    だが確かとは言えない。ふたりとも、その瞬間が去ったことを知っていたから、今、彼女はそのことで私を気遣ってくれたのかもしれない。彼女は私との友情を失いたくないのだ。私はこの世で恐らく彼女の唯一の友達だろう。何れにしても、私の苦悩の源は範子の私への返事ではない。苦悩の源は私の欲求そのものなのだ。

    July 21, 2007

    第15章(2)

    ジョンは若くない。苦労のあとが見える。だが彼がそこから何を学んだのか評価することは難しい。彼は合衆国に戻りたくない、ここが好きなのだ。長期間のビザと、ビジネスが始められる金が必要なのだ。始められるだけのいくらかの資金が手に入るなら、かなりうまくやれるという確信が彼にはある。このために日本人の妻が必要なのだ。美子が好きである。彼女が彼を好きだという証拠も揃っている。彼女は彼と結婚すべきであり、そうすれば人生のあらゆる未解決の課題は一発で解消するだろう。

    「俺は規準内で動きたい。動き始める前に注意深く、自分でそれを限定する。一度定められたら躊躇はしない。ただ進むだけだ」

    彼はアメリカ人だ。アメリカ人は馬鹿だ、とリサが言う。だがジョンはクリーブランドの実に素朴な男なのだ。商売が好きで、男友達が好きなのだ。もし規準を毎日毎回調節しなければならないとしたら、彼の頭はくるくる回り出すだろう。

    「昨日の彼女の言葉はあまりにもショックだったよ。彼女、どうしてセックスするだけの友達じゃいけないの、と僕に聞いてきたんだ」

    「どういう意味? スワッピングのこと?」

    「つまり人はテニスをする友達や映画に行く友達を持つことが出来るんだから、どうしてセックスを一緒にする友達を持ってはいけないのかと言う意味なんだよ」

    「美子は、君と美子との関係に当てはめるつもりで言ったのか」

    「残念ながらそうだろう」

    「もし僕が君の立場なら、そんなにショックではなかっただろうな。私達が出会った時、リサは似たような考えを持っていたんだ。今は彼女もそれ以外のことを期待しているとは思えないけど、少なくともその時は私だけが結婚を望んでいたんだ」

    「しかし相手に全面的に関わり合うことは、二人の関係に全く新しい展望をもたらしてくれるだろ」

    「それは彼女らの経験ではないんだよ、少なくとも彼女らの母親の経験ではない。男に全面的に関わり合うことはほとんどいつも彼女たちに苦痛をもたらした。今日、彼女らは教育を受け、経済的に自立しているので、ごたごたには関わりたくないのだ。彼女らはセックスのために男を必要とするが、その他のことではほとんど必要としない」

    「しかし、母親たちは奨励しているようだ」

    「結婚を?」

    「俺は今混乱している。美子の母親が僕を歓迎してくれ、九州に旅することに何の反対もしなかった時、俺を将来の義理の息子と見なしてくれていたと思ってた」

    「そうなんだ、僕もこの母親たちには驚いたよ。娘がセックスを必要としていることを知っていて、そのことに眉をひそめたりしない。だけど、結婚、つまり束縛は駄目なんだ。リサの母親は外国人との結婚、娘よりもずっと年上で、金も仕事もない男で、精神病の病歴を持つ男との結婚に猛反対した。しかし、リサがその男と一緒に寝るのには、反対しなかった。それが理解できない。彼女らはちょっと別の道徳感を持っている。リサはキリスト教的倫理感と呼ぶものをよく茶化すんだ」

    「だけどあんたはキリスト教徒でなくて、ヒンズー教徒だろう?」

    「そうだよ、でも150年の間イギリス人が一緒にいたし、さらに、古代のヒンズーの道徳とかそんなものが、イスラム教徒の侵略と共に随分変化したんだ。それにバラモンたちは堕落したし、その他多くのことが起こった」

    「それじゃ、あんたは相手に全面的に関わり合うことなしにベッドを共にするという関係を認めるのか?」

    「正直いって、ただ分からないと答えられるだけだ。こういうことは機械的にはきっと処理出来ないと思う。もし明日、リサがいない時に美子が私の部屋に来て、おかしな振る舞いをし始めたとしたら何が起こるか誰に分かるだろう? 彼女を追っ払うか、それともとことんやってしまうか、何でも起こり得るよ。全面的な関わり合いとか関係とかについてこうして話したことは、その時には全く意味のないことになるだろう」

    「そんなことは映画でしか起こらないよ」

    「そう願うけどね」

    「とにかく、あんたが言うことはそんなに珍しいことではない。だけど俺が言いたいのは、つまりちゃんとした関係とか全面的な関わり合いとかのないセックスはあまり素晴らしいものじゃないということだ。高校の時とかそんな類ならオーケーだ。だけど二人の間で、他のことに関するすべてが合意に達していないなら、セックスで何の絶頂感も得られない。俺の言いたいこと分かってくれる?」

    「やっと調子が出てきたね、ジョン。だけどね、君、日本でどれだけの女たちがその絶頂感を感じたことがあると思う? 彼女らはそれについて本で読むんだ。実際、彼女らはそのことしか読んでないようにみえる。リサは膣のオーガスムを得るための全く奇妙なテクニックをいくつか私に紹介してくれたんだけど。このオーガスムとかなんとかいうことがむしろ男女の関係の質に左右されるのかもしれない、と言うことは何故かわれらの女たちには理解できないんだろうね」

    「この国の何が問題なんだろう? 俺にはここの人々は人間らしく思えない。何が彼らを悩ませているんだ」

    「ワカラヘンケド、想像してみることは出来る。特に美子の母親のような人達についてはね。彼女らは戦後に大きくなった。あまりの恥だらけ、あまりの不名誉が、その頃の日本に山積みされていたので、子供達はある種の不感症になった。彼女らは子供達が必要とする物は何ひとつとして待てなかった。彼女らの大半は父親を持たなかった。そして彼女らの母親たちは疲れきっており、淋しく絶望的な人間たちだ。

    不名誉のすべて、恥辱のすべてがこれらの子供達に不屈の精神を与えた。決定的に不屈の精神を。彼女らは成功しようと決心した。君の言葉を借りると、当面の規準を設定して、その中で一生懸命働いた。懐疑のために立ち止まったり、上手くいっているかどうか時折省みたりすることもなく……

    その日本人と、47年の国土分割で根こそぎにされたインドの人々の間に私はある類似点を見る。彼らもすべてを失ったし、大部分は彼ら自身に落ち度などなかったのだ。彼らは同じように振る舞った。冷酷になり、がむしゃらに働くようになった。

    とにかく、だから美子の母親の世代は成功した。彼女らの決めた規準内では非常に成功したのだ。しかし、その規準の外にあるものをすべて失った。取り返しのつかないほど失ってしまったのだ」

    「時々思うんだが、もし俺が美子と結婚したら、美子と母親の両方が男もなかなか捨てたものじゃないということを知る機会を得るんじゃないだろうか。男もトモダチであり得ると」

    「スゴイ、ジョンさん! 素晴らしい考えだ。関係というのはそのような考えの上に成り立っているんだ」

    「そうなんだ。だけど彼女がまず結婚に同意してくれなきゃね」

    「なぜだ? ジョン、何も求めないことだ。ただ与え続けるんだ、そして投資に見返りを期待しないことだ」

    「それはギータからの引用かい?」

    「いやいや、それはキリストが言ったんだ」

    July 20, 2007

    第15章(1)

    範子が見当たらない。恐らく東京にいるのだろう。彼女はどこかへ行きたくなるといつでも、私達のところに行ってくると両親にうそを言う。だから電話はできない。

    ジョンはここを出てちゃんとしたアパートに引っ越した。先週、私達は彼の引っ越しパーティーに行った。とても小さいアパートなので招待客はほとんどいなかった。招待されたのは、たったの三組。外人ハウスの女の子たちはジョンに腹を立てている。彼女たちは何ケ月もの間、ジョンの苦悩を聞き、泣いたら可能な限り彼に肩を貸してあげたのだ。少なくともその特別な夕べ、彼女たちを招いて、一緒に飲んだり、歌ったり、大声で笑ったりすることが出来たはずだ。

    だが、ジョンは注意深いし、それに使命を持っている。美子は白人の女の子たちと一緒にいると居心地が悪いのだ。言葉のせいだと皆言うが、しかしそれは白人女たちの長いまつげや、口紅が要らないほど赤い唇のせいでもある。

    ジョンは非常に注意深いプランナーである。彼はクリーブランドで小売り業を営んでいた。私達の他に、日本の女と結婚しているニュージーランド人、それにマサとカレンが招待されていた。カレンは小さな男の子を連れて来ており、それがその場にある種の品格をもたらした。ジョンが英国の影響を受けていることは明かである。

    私はビールを飲んだ。恐らく非常にたくさん。クリケットについてニュージーランドの男と話した。ビールとクリケットの話はよく合うのだ。美子はこの機会のために綺麗に着飾っていたが、リサはそうではなかった。私はその女主人に礼を尽くした。かなり必要以上に。リサは家に帰ろうとあの小さな部屋を出た瞬間そのことを言い始めた。

    覚えているのは、その晩、美子に4回か5回、君は魅力的だと言ったことだけだった。それは必要だったのだ。パーティーの為に彼女は足の爪まで塗っていたのだから。私は彼女があの華奢なおもちゃのような車を運転している時、非常に格別に見えるとも言った。車と運転者がぴったり合ってると。それはビールを嫌と言う程飲んだ後に飛ばす私の貧しいジョークの一つなのであった。彼女が車と呼ぶそのおもちゃに出入りするのに私はとても苦労した。

    しかし、彼女はそれをほめ言葉ととった。私はジョンに良いことをしたと思う。客が去った後、彼らは気持ちよく愛し合ったのだから。

    ジョンは学生時代の一人の友達を思い起こさせる。この男は女の子と知り合って数分の間に結婚を申し込むのが常だった。

    パーティーは成功だった。ジョンと美子は一緒に料理した。美子は日本式礼儀で客をもてなした。男のグラスにビールをついで、その度にさほど長くない睫毛をぱちぱちさせた。ジョンは自分のアパート、自分の恋人、そして面白くもないジョークを飛ばす自分の友達を得意に思っているようだった。

    「ジョンさんは私にあなたのご主人はインテリだと言ったけど、実際はとてもおかしい人ね」

    帰ろうとした時、美子がリサに言った。「おかしい」は和製英語でユーモラスと言う意味である。それからリサに私の年齢を尋ねた。

    「えっー、ジョンさんとあまり変わらないのね。何故、そんなに老けて見えるの?」

    私は説明として自分の白髪頭を指さした。

    「あー、なるほどね、だけどジョンさんはハゲになってきてる。彼の胸毛を頭に移動出来ればと思うのよ」

    日本の男には胸毛がない。

    「僕たちの外人ハウスよりこの場所の方が好きなの?」

    私は美子に尋ねた。私がジョンから期待されていたのは、何故、美子が結婚を避けているのかをどうにか見つけ出すことであった。

    「ここはいいわ、私の家からとても近いから。これからは来たい時にいつでも来られるし」

    と言った。

    「どうしていっそここへ移って来ないの?」

    ニュージーランド人が尋ねた。彼は不器用なわけではないが、彼はクライストチャーチ(ニュージーランド南島東岸の市)でクリケットの直球投手をつとめていた男である。

    ジョンはショックを受け、苦しい目で私を見た。リサとニュージーランド人の妻は耳をそばだてた。しかし、何も起こらなかった。美子は賢明な言い訳をひねり出そうとしていると皆が思っている間、私は「移って来る」という英語が我々の可愛い女主人には理解出来なかったのだと感づいた。私はこの国で英語を教えたことがあるのだ。

    それで何も起こらなかった。ニュージーランド人は繰り返して言わなかったし、リサは話題を移し、日本語に切り替えた。

    July 15, 2007

    第14章(3)

    「君が何を嫌がっているのか察するのは難しすぎるよ。ジョンも美子に関して同じような問題を抱えている。彼はもうあきらめたいと今朝電話で言ってたよ」

    「あなた、本当に知りたいの?」

    「うん、何よりもね」

    「私はあなたに女になってほしいの」

    「何だって?」

    「そうなの、あなたの男性器はそのまま残ってていいんだけど、他のすべての点で女のようになってほしいのよ」

    リサを私の膝に座らせて、軽い調子でしゃべっていた。それでも、これらの言葉の意味があまりに重要なので無視出来なかった。

    男は粗野だ、と言うのが彼女の意見である。愛し合っている間、ほんの小さな微かな攻撃性でも、それが見えると、リサは即座に冷えてしまう。一つ一つの動きがとてもゆっくりなされなければならないし、それらが彼女に100パーセント受け入れてもらえるものかどうかを確認しながら進んで行かなければならない。抱き締めないで、ただ柔らかく愛撫するだけ。突っ込むのではなくて、ただ、するりとすべり込むだけ。言ってみれば唇がそれを吸い込むという感じでなければならない。とにかく文句を言うことは出来ない。私はそれが好きだし、私は彼女が好きなのだ。

    そして、セックスを通してどんなごまかしも試みてはいけない。意識下でさえも。男が粗野であることを自ら悟り、それを止めることがすべての望みであり、願いなのである。

    アジアは女のようで、ヨーロッパは男のようだ。これはリサの好きな信念の一つである。

    「日本は、西洋の考え方を取り入れ始めてから、惨めになったわ。誰もが年がら年中ストレスの中にいる。誰も考えたり感じたりする時間がない」

    「でも日本が成功したからこそ、今日誰もが日本に一目おいてるんじゃないか。西洋的なものを取り入れて成功したんだよ」

    「何故あなたは成功とか、認められることをそれほど強調するの。テレビに出てくる大統領やテニスのチャンピオンのような、いわゆる成功した人たち。彼らの誰一人として私には幸せそうに見えないわ。認められるのに忙しすぎる。動物は認められなくたって幸せに生きられる。木は、誰かに見られようとそうでなかろうと幸せだわ」

    そんな議論は以前に聞いたことがあるし、滅多にそれに感動したことはなかった。そういう理論家の大半は書いた物を有名な新聞や雑誌に発表したがっている。リサは違う。心からそう思っているのかもしれない。

    私達が一緒に歩く時、真っ直ぐに歩くことは決してできない。私が何か独創的なことを雄弁にしゃべっているというのに、リサは「あっ」と言って、傍らの家の塀を這っている虫をよく見ようと走り出す。

    猫はもっと困り者である。リサは駐車してある車の下に座っている猫まで感知することが出来る。そして、それに挨拶するために道の真ん中にしゃがみ込まなければならないのだ。そんなことがごく日常的に起こる。短いスカートに私の目が行ってしまうのと同じように。

    私にとって、葉っぱはすべて緑であり、木は周りにあると気持ちがいい、しかし、それ以上の何物でもない。リサの場合、それはもう少し本質的な何かである。私が彼女と生きることによって少しでもそのおこぼれを頂戴できればと願う何かである。

    彼女は、他の者同様、少し変にもなり得る。会った当初、夕陽を見逃した時は眠れないと言っていた。「赤い黄金の光が、私の股の間に真っ直ぐ入ってくる」のだと。

    リサはその頃、ベンガルのタントラ修業者の一派に興味を持っていた。このタントラ修業者は連続的な、途切れることのない性交を行ずる。彼らの目標は、女が持つ複数のオーガスムを通してクンダリニーを目覚めさせることにある。

    数ケ月にわたる規則的で健全なセックスの後、リサは落ち着いた。しかし、同時に虚無感がある。目標の不在である。

    「大学やセミナーが全く無意味に感じるの。教授が教えることや、学生が討論することは、あまりにも初歩的で現実からかけ離れているみたいで、何かすべて時間の無駄じゃないかと思い始めたの」

    「チェンバロをまた始めたらどうだ」

    「それも考えたけど、今は何も重要でないように思えてしまう。駆り立てるような衝動が、もうないのよ」

    第14章(2)

    範子や他の人たちと私の関係がリサを苛立たせる。口論では私ばかりが勝つ。それは第一に私たちが常にリサの十分に使いこなすことのできない言語で話すからであり、第二に、そしてもっとひどいことに、私はリサが変わる以前に持っていた彼女の意見からいつも何か引き合いに出してくることが出来るからである。

    このこと全体が彼女をくたくたにしている。私たちは前より頻繁に口論している。

    父親のせいで、口論は彼女にとって非常に辛いことである。リサは私の他に何人かの男性と親しかったことがあるが、すべて短い期間であった。私が思うに、彼女がこれまである程度の期間一緒に住んだことのある唯一の男は、今のところ父親だけである。恋人とは、喧嘩や意見の食い違いが始まる段階に至るほどの期間、落ち着いて住んだことがなかった。

    父親とは、多分、意見の食い違いがあっただろう。妻と2人の娘という3人の女性が住む王国で威張り散らしているこの男は、独特な方法でかんしゃくを表した。

    ある時はリサが言うことをきかなかったので、彼はリサの子猫を二階の窓から投げ捨てた。また彼はハサミを自由自在に用いる。子供達が聞いている音楽の音量が高すぎると思うと、すぐにコードを切った。リサが学校の友達とあまり長く電話で話していると、ハサミが再び効力を発揮した。神戸の家では、電気の接続部分がすべて、継ぎ接ぎだらけである。

    彼はノートを破り、カメラやテレビのようなものを地面に投げつけた。子供達を殴ることはなかったが、彼女らに楽しみをもたらす物は何でも素早く破壊した。

    話をしていて誰かが私の言うことを聞き取れなくて、いま言ったことをもう一度繰り返さなければならないというのを私は嫌う。レストランでウエーターに注文を繰り返すことほど厄介なことはない。

    「父の言うことが聞こえなかった時は、いつでもひどいことになったわ。彼は繰り返すことが嫌いで、しかも、私達が返事をしないと怒り狂った。あなたが同じことをする時とても恐ろしくなるのよ。あなたの中に自分の父を見始めるの」

    「僕が君の父親とは似ても似つかないことは知ってるだろ」

    「ええ、でも父も私が小さかった時は、あんなんじゃなかったわ」

    リサには相手の言ったことの意味を理解する前に、その声の響きに応じる癖があった。それで私は混乱したものだった。彼女の「ええ」を聞いた後、私は話を最後まで続けるのであるが、最後に(礼儀正くではあるが)最初の部分をもう一度繰り返すよう頼まれることが常だった。

    「日本の言語あるいは会話の構造は、文の始めにあまり重要でない言葉がたくさんくるようになってるの。それは聞き手の注意を喚起するという役割を果たすのよ。そして意味のある部分は、真ん中と最後だけ。私が英語で困るのは、だいたい英語では、最初の言葉自体が文の流れを決めてしまうからなのよ」

    これは、一番もっともらしい説明だった。インドでしばらくのあいだ宮廷言語として使われたウルドゥー語にも同じような「意味のない言葉」があるのを私は知っている。

    専制政治が行われた国の言語は、すべてこのように発展するのだろうか。言葉が伝達のために使用されない言語、つまり安全に進むことができるよう請願し、懇願するために使われる言語。専制君主の怠惰な耳にぴったり合わなければならない言語。意味内容ではなく、言葉の雰囲気や語調に注意深く反応しなければならない言語。

    幸いなことに、私たちは喧嘩について話すことが出来る、それが解決した後でも。

    第14章(1)

    私は一緒に住むには疲れる人間に違いない。

    「確かに彼は他の人を圧倒するわ」

    妹は一度、私の前の妻にそう書いた。生計の維持と関心事の追求を両立させようとすると、近くにいる人たちの神経にさわることがある。リサは誰よりもうまくそれを扱うことが出来ると思うが、常に限界がある。

    リサは髪の毛を引っ張られんばかりに、はやく動くことを強いられた。そして、彼女にはその目的が全く分からない。

    自分が不幸せで、淋しい時には、いろんな考えが嵐のように頭に集まる。すべてを即座に打破したい。その時には、自分が行動するように選ばれた者であり、解決するように選ばれた者であるということを心は信じて疑わない。

    幸せが来ると本能は鈍くなる。埃は静まる。そこには雨の後の涼しい爽快な世界がある。普通の何の変哲もないことが、どれも美しく興味あるものに見えてくる。文明の行く手に待ち構えていると思っていた真剣な危機は、次第に遠のき始め、そしてしまいには記憶から消えてしまう。

    京都のトマトの値段が、飢えて惨めなソマリアの子供たちのよりも優先的な問題となる。

    リサにも似たようなことが起こった。そして私にも同じように感じて欲しいのだ。しかし、私は永遠に落ち着かない馬鹿者である。

    人々はいつも、私がもらい物のあらを探す、と批判する。私を恩知らずと呼ぶ。学生時代、フラッシュと呼ばれるトランプゲームをよくしたものである。ポーカーに似ている。一度も勝ったことはなかった。ゲームの流れにどのように合わせたらいいのか分からなかった。3、4時間のゲームで15分か20分、カードが自分に都合の良いように回わる時がくる。その時が、大きな勝負に出、ポイントを稼ぐ時なのだ。その他の時は、損失を最小限に押さえていなければならない。だが、私は決してそれを学ばなかった。つきがあろうがなかろうが始めから終わりまで勝負し続けていたのだ。永遠の楽観主義者。そして一度も勝ったことはなかった。ビジネスにおいても同じようなパターンに従った。

    なぜ私は人生をもう少し冷静に捉えられないのだろうか。なぜ少し休んで、食べたものをよく味わったり出来ないのだろう。なぜ、このように次のエピソードへと絶え間なく計画し続けるのか?

    そして、急いでいてつまずくと、全世界が私を助け起こすために走って来て欲しいのだ。助け起こして再び健康になるまで看護して欲しいのだ。一体、私に成長するということがあり得るのだろうか。

    ひとりぼっちだった年月に、私は結婚が民主主義的な制度ではないという、かなりもっともらしい理論を築き上げていた。私は家庭が国や州同様、ただ他のグループを利用するためだけに作られた、政治的団体にすぎないという動かぬ確信を持っていた。

    実際、私は以前マスターベーションを最も理想的な性行為として支持する小論を書いたことがある。それのみが人間に本当の意味での絶対的な自由を与えてくれるのだ、と書いたのを覚えている。

    リサの変化を観察し、自分自身の立場を思い出す時、考えというもののはかなさをさらに切実に実感し始めるのだ。

    July 10, 2007

    第13章(3)

    最近知ったのだが、範子は中くらいの大きさの家族の末っ子である。これである程度のことの説明がつく。このような状況では、人は思いきり甘やかされるか、あるいは皆の批判の的になるかのどちらかである。範子の場合後者が起こったのだと思う。彼女は可愛くもなく、聡明でもなかったのだろう。 中学校の時、私は1年間母方の祖父の家に住んでいたのを思い出す。大勢の大人と、数人の少年がいた。少年が大人と出くわした時はいつでも何かの用事、コップ一杯の水、棚のタバコなどを持って来させるとか、変わったところでは、暑い日なか何マイルも離れた所へ自転車で伝言を運ぶことなどを言いつかった。大人が使い走りを考えられない時はいつでも、私たち少年がいかに全く役立たずで、いかに生きるに値しないかということ言い聞かせるために、説教を垂れた。私にとっては、それはたった1年で済んだ、そして、大人がそれほどひどくない世界へと戻っていった。しかし、範子は全生涯をこのように過ごしたのだ。彼女はいつも機械的にへりくだっている、それは明らかだが、心の底ではいかなる種類の権威も嫌っている。そして自分自身のために、それが欲しいのだ。彼女は「大人」になりたい。

    範子は完全に民主主義に乗り損ねた。世界ははっきりと高低に分割されている。これは私に、ある洞察を与え始めた。サラリーマンとの結婚は大人と結婚することを意味し、それは子供としての生活を永遠に続けなければならないことを意味する。

    プリヨは恐らく、全人生をかけて捜していた弟であったかもしれない。誰かが自分のことを尊敬してくれるのは快いことであった。愛し方を教えることさえできた。年長者として、成長した姉として、女性の陰部がどんな風なものかを見せることもできた。

    だが、永遠に「大人」であるのはあまりに厄介だ。弟が熱を出している時、誰がおしめを替え、看病してやるのか?

    独立しており、仕事を持ち、金のある弟が必要なのだと範子は気付いたのだ。

    それを日本で見付けるのは難しい。京都でちょっとの間、ある日本人の男の子に言い寄っていた。その子はシタールを習いにインドに行ったことがあった。ある日範子は私達の所へ彼を連れて来た。しかし、この子は愚かだった。私とずっと音楽について話して過ごしたのだ。この付き合いには先に進む可能性がなかった。範子は長く待てないのだ。

    範子は日本人だけあって、自分の市場をよく知っている。南アジアからの労働者達、彼らはいつも日本人の妻を捜していないか? それは彼らにとって日本で安定した生活を営むためのパスポートなのだ。だからジャハンギールなのだ。

    July 08, 2007

    第13章(2)

    「日本に男なんているの?」

    ターニャは私に言った。

    「空虚な目をした虫けらのような奴らを男と呼ぶの! 奴らのしたいのは、私たちの胸の谷間を見下ろすことだけなのよ」

    と鼻を鳴らした。

    「君のを見るには彼らは椅子にのぼらなければならないだろう」

    「それならスカートの下から見上げるかもしれないわ。同じことよ」

    「そんなようなことを嬉しがる女たちを知っている」

    「そうでしょうよ、あなたならね、いやらしいインド人」

    「だけど、君が言うほど悪くはないかもしれないよ。女の子というのは、結局は注目されるのも好きだから」

    「いつ私がそうじゃないって言った? でも、それにはそれなりの方法というものがあるでしょ。私を性の対象としか思わない奴のことを、どうしたらいい人間だなんて思うことが出来るのよ?」

    「そんなにあからさまにやるのかい?」

    「2日ほど私のクラスに来てみなさいよ。それが分かるわ」

    「でも仕事の外でも男たちを知る機会があるだろ」

    「電車で? バスで?」

    「まあね」

    「あいつら酔っている時以外は会話が始められないのよ。そして、酔っぱらった日本人の男は、地上で一番ぞっとする生き物だわ。先週なんて、電車に乗っていた私に一晩いくらだって尋ねてきたのよ」

    ガイジンの女の子たちは問題をかかえる。思考様式の違いからくる問題である。しかし、私はこの「日本に溶け込むことができない」という問題に、もう一つの側面を感じている。

    今ではもう何百年も昔の話になるが、白人は最初商人として、兵士として、行政官として、研究者として、あるいは観光客としてアジアに来た。今のように肉体労働者として、召使いとして、平凡な賃金労働者として来たことは一度もない。というのもアジアの賃金は、母国のよりも決して高かったことはなかったからだ。

    だから白人たちは、支配か、開発するためか、あるいは平和や美のような漠然としたものを追求するためにのみやって来た。

    日本で起こったことは、何か法外なことである。日本のレストランは、可愛いブロンド娘をウエートレスに雇い、簡単に週給700ドル払うことが出来る。ヨーロッパのナイトクラブのホステスは、週給1500ドルがせいぜいである。今日、自分の子供に英語で話しかけてもらうために、家に来てもらった誰かに2時間分として70か80ドル払うことの出来る日本の家庭は何百とある。

    そんなクラスを毎週10個調達することは、この不景気の中でも不可能ではない。日本は物価の高い国だが、安い宿舎に住み、食事を切りつめるなら、毎月1000~2000ドル貯金するのはたやすいことだ。

    しかし、心か内臓のどこか奥底で彼らは居心地が悪い。

    北アメリカにいるインド人移住者に同じ現象があるのに気が付いた。「移民」は、その移住先の社会階層の下の方に位置づけられることになる。そうなのだ、楽園に移住したとしても、社会的には常に数段下を登っていることになるのだ。これが不快の原因となる。

    しかし、その後、金銭的観点から築かれたすべての関係、すべての努力が当惑の原因になる。最も鈍感な者にとってさえ。

    日本の人々がそれをどう思うのか推測するのは難しい。金は、少なくとも日本の女たちに自信を与えるには至っていない。まだ、ぺちゃんこの鼻や小さな乳房のことを心配している。あるいは、金が、まだ女たちに行き渡っていないのかもしれない。

    日本の男は金のことをよく知っている。地球を買春して回ることに大金を使う。だが、金持ちだということ以外に自分に価値があるかどうかを同時に心配している。解決は簡単である。酒! それで、午後7時から12時までは、王様たりえるのだ。

    July 07, 2007

    第13章(1)

    ジョンはウッディ・アレンを思わせる。恐らく眼鏡のせいだろう。アメリカでの生活が生き詰まり、ここに来て英語を教えている。

    日本は手ごわい。ブロンドの髪と青い目にお金を出す。好奇心から一夜を共にしてくれることもある。だけど友達にはなってくれない。心を開いて話してくれない。手ごわいのだ。

    ジョンは落ち着いた生活が欲しい。情緒的な安定が欲しい。金も欲しい。アメリカ人は非凡な人種である。何が欲しいのかを雄弁に語ることができるのだ。

    しかし、日本は冷淡だ。股は開かれているかも知れないが、心は閉ざされたままだ。

    そしてガイジンの女たちにとってはさらに手ごわい。彼女たちには金はもっと支払われる。陰気な奴らに微笑みかけ、匂いを嗅がせてやるのを仕事と呼ぶことが出来るなら、仕事は毎日数分であり、国に帰って修士コースに行くだけの金を十分貯えることが出来る。しかしながら、すぐ、独特の精神不安が始まる。空虚な夕方が、日一日と彼女たちを弱らせ始める。これまでの人生について反省する時間、吐いて捨てるほどたくさんの時間を持ち始める。過去の過ちについて、突然全く空白に見え始めた将来について。

    思春期の頃同様、目覚めが遅くなり始める。日毎に上がってゆく円の為替レート以外は何も楽しみに待つものはない。男がいなくて淋しいと思い始める。それもひどく。それは、平和時の任務で、どこか変な島に配置され、どうにもならない兵士のようなものである。軍隊では少なくとも時折、お祭り騒ぎが催される。ここの女の子たちにはそれさえないのだ。ただ貯金高が跳ね上がって行くだけ。

    男の子たちにはウイスキーがあるし、日本には、「イケイケ女」がたくさんいる。女の子たちは午前中、そして昼を寝て過ごす。寝返りをうち、子供のような泣き声を出す。最大音量のロックミュージックでさえ、神経を落ち着かせることが出来ない。彼女らは念をいれて顔や体を洗い、食べる。ラッキーなことに仕事は4時に始まる。しかし、まだ7時にもならないというのに、もう一日が終わる。なんてことだ。

    頭が空っぽの人たちは得だ。文化の違いなどが、かなり長く彼女らを魅惑し続ける。バンクーバーやパースやオマハにいる姉妹に長い手紙を書き、奇妙な日本の習慣について、故郷とどんな風に異なるか、その違いにどれほど驚いたか、などを書き送るのである。

    July 06, 2007

    第12章(2)

    先週、日本人の新聞記者が電話してきた。在日韓国朝鮮人組織の活動家が、その日彼を訪ねることになっていて、彼は私がその在日の訪問者と会うことに興味があるかどうか尋ねてきたのだ。この日本人ジャーナリストは、日本のその業界の者にしては、珍しくユーモアのセンスがある男だ。

    私はいつも暇である。時おり、インドのカースト制度や宗教区分について、そういうことに適当に興味を持った日本の女の子たちに話すことでいくらかお金を稼ぐ。英会話と呼ばれるものだ。しかし、いつも暇である。リサはそれを贅沢な生き方と呼ぶ。

    30年代のある時、朝鮮半島の人々が日本軍に連れてこられ、奴隷労働に使われた。合衆国における、黒人や中国人たちのようなものだ。

    戦後日本を占領していたアメリカ人は、その朝鮮人達を同等に、つまり、アメリカ人と同等に、そして征服された日本人より上に扱った。この数千人の朝鮮人達は、その時疲弊した日本で、あらゆるものについてあくどい闇市場を営んだ。犯罪に関与し、用心棒代を取り立て、賭博場を開いた。彼らにとっては良い時代だった。

    1952年にアメリカ人は去り、そして朝鮮半島はまだ混乱していた。この国外に放り出された朝鮮人達は、再び、日本が良くない所だと悟り始めた。

    数年後、彼らの一部は日本政府に連行され、サハリン諸島に追放された。再び、リベリアとよく似たケースである。

    残った朝鮮人達は膿んだ傷のように残された。戦争で日本人が何をしでかしたかを彼らに思い起こさせるために、彼らがいかに野蛮な民族かということを思い出させるために、これらの人達は、常にここに存在している。

    日本の政府は他の国の政府同様、過去のこの遺物をいかに扱うか途方に暮れている。野党は、取り上げる論争点にこと欠く時はいつでも、この頼もしい論点を出してくることができる。平均的な日本人は在日韓国朝鮮人を毛嫌いする。マスメディアは、これも世界のどこでも同様、社会の残りの人々とは違って自分たちは神であり、親切で平等であると信じている。

    この在日韓国朝鮮人達は、数としてはとるに足らないものである。しかし、こんなにも完全に単一文化的な社会においては、彼らの不調和な声が大きな雑音を引き起こすのだ。

    私の友人を訪れたその韓国朝鮮人活動家は若かった。日本で生まれたと言った。父親も日本で生まれた。母親は韓国から来た。そして、彼の妻となる女もそうなるだろうという。

    「君はとてもハンサムだ、きっとたくさんの日本の女の子たちが君と結婚したがると思うよ」

    と私は言った。

    若い人達は真面目だし、とにかく日本はとても真面目な国だ。重大な人権論争が問題となっている時に、個人的な感想を持ち出してくることは間違っていた。

    「もし私が日本の女の子と結婚すれば、子供達はアイデンティティーの危機に直面するでしょう。彼らは拠り所を持てないでしょう」

    友人は通訳の役をかっていた。彼は他の日本人同様、巧妙に笑みを抑制することが出来た。

    「もし君がコリアンであることにそれほど固執するのなら、なぜ母国に住まないの?」

    私の質問は私のお決まりのコースを辿り始めた。

    「私達は意志に反してここに連れて来られたんです。そして今、母国は分割されています。私たちはどこに帰っていいのかわからないんです」

    「ねえ君、それはずっと昔のことだよ。そんな馬鹿げた昔のことは忘れてしまえばいい、君は若いし、教育もある。自分自身を一個人として見ることが出来る。もっと自分を楽しんでみたら?」

    私の質問が、だんだん助言のようになってきたのではないかと心配した。しかも、その若者は、彼の組織について、また日本政府が最近彼らに対して犯した罪についてたくさん話そうとしていたに違いない、彼は宣伝用の書類をたくさん持参していた。しかし、我らの通訳である友達は、それをさほど気にしてないようだった。

    「私達は皆、両方のアイデンティティーが必要なんです。私達のルーツとしてのそれと個人的なものとしてのそれの両方。実際、これらは、ちょうど心と体を切り離すことが出来ないように、切り離して考えることは出来ないんです」

    「じゃあとにかく、君たちが日本の人たちに何を期待するかを話して欲しい。日本の政府にして欲しいことはすでに良く分かっている」

    私は言った。

    それには用意があった。彼は日本の女と結婚する気はないが、日本の人たちに彼を同等に扱って欲しいのだった。日本人同士が互いに払うような尊敬を持って。

    疲れてしまった。友達は訪問者にコーヒーを出そうとしたのだが、私をちらっと見て心を変えた。

    後で自分達だけで飲んだ時、友達は恐らく私が、戦前と戦争中に日本が朝鮮半島でしたことを、十分知らなかったのではないかと言った。

    「少しは知ってるし、残りは推測できるよ。人間はどこでも同じことをする」

    私は言った。

    「そう、だけど第二次世界大戦はまだ終わっていないと思う。多くの問題がまだ解決されなければならない」

    「どんな戦争も解決されないよ。僕が嫌いなのは、人々が何らかの苦情を売り物にし始める時だ。これは健全ではない。特に若い人にはね」

    もし、この友人が、翌月に予定されている日本における在日韓国朝鮮人の惨めな姿についての一連の執筆を控えていなかったら。私に同意していたことだろうと思う。

    「私達はマイノリティーの人々の心を決して理解することはできないだろう」

    彼が言った。

    「そうだね、インドではよく同じことを感じたよ」

    私は丁重に言った。

    「でも、日本にしばらく住んでみれば、それが少しは分かるようになるかもしれない」

    「その時、是非僕に会いに来て、君にインタビューするから」

    July 05, 2007

    第12章(1)

    国家主義というものは独特である。誰かがでたらめに大海に投げたような数個の石の上に事実上住む日本人は、この特異性にかなり悩む。彼らは実存主義を学び、ヴェーダを学ぶ。本を集める。家に本がたくさんありすぎて、他の物を置く場所がほとんどない。日本の商店街には4軒毎に本屋があり、本は10段もの棚に積み上げられている。フランス語から翻訳された本、ドイツ語から翻訳された本、英語から、ヘブライ語から。しかし、彼らは、太平洋の細長いこの島の外で生まれた者が人間であり得るとはあまり思っていない。

    ずっと以前、彼らは中国から文字、料理、宗教、鼻の低さなどを手に入れた。しかし、数十年前、彼らの生活水準が上昇した時、中国人を見下し始めた。彼らは目を西洋に向けた。あるいは、西洋人がそう仕向けたのかもしれない。彼らはそういうことに長けている。

    彼らの生活水準は、それ以来さらに上がり、今彼らはどこを見ていいのか分からない。

    西洋は今も重要だが、広島に原爆が落とされた時ほど特別ではなくなった。

    日本で最も人気のある気晴らしは、自責である。戦争でしたことへの自責。経済的なゴール以外何も追求出来ないことへの自責。封建的振る舞いに対する自責。自責、自責そして自責。しかし、この自責の念にかられ、それにふけることは彼らの実際の行動に何の変化ももたらさない。実に独特である。

    数ケ月の冬眠の後、範子は再び動き始めた。先日やって来て、過去6年間、東京で不法就労しているバングラデシュ出身の男の子について話した。

    リサは火曜日と木曜日、神戸でアルバイトをしている。どういうわけか、範子はいつもこの時に暇なのだ。リサに対して何らかの後ろめたさを感じ始めたようである。私は外国人だ。私と一緒に時間を過ごすのは、海外にいるようなものである。

    範子はセックスについて話すのが好きである。問題なのは、私もそれについて話すことが好きだということだ。話の大半は面白くない。範子は未だ好奇心の域を出ていない。しかし、女と一緒にこういうことを話すというのは刺激的である。

    「こういう話はリサ子さんとすれば? 彼女の方が君のことをもっと助けてあげられると思うけどね」

    範子に一度尋ねたことがある。

    「リサ子さんは日本に来てから変わったの。インドでは、特に彼女があなたに会う前は、よくこういうことについて討論したものだったわ」

    英語でなら、セックスについて話すのも、範子にとって抵抗が少ないようなのだ。しかし、彼女の英語の知識はごく限られているので、話はなかなか前に進まない。

    このジャハンギールという男の子は、何年も前から範子に恋しているらしい。ずっと東京から電話をかけてきている。奇妙なのは、ここ数ケ月の間に、範子の話の中に一度も彼のことが出てこなかったということだ。

    「知り合ってかなりになるわ。でも私に恋しているって知ったのは、ほんの最近なの」

    「どうやって?」

    「どうやって? どういう意味? ワカラナイ」

    「彼がこの数年間ずっと君に恋をしているって、どんなふうにして知ったの?」

    「彼が電話でそう言ったの。彼もうお金を十分貯めたから。今、ダッカに戻りたがってる。私が決心するのをただひたすら待っているのよ。ジャハンギールは、1年、2年、あるいは10年でも待てるっていうのよ」

    「ふーん、だけど君の両親は?」

    「そうなの、そうなの。両親は絶対に外国人を受け入れてくれないわ。ムズカシイデスネ!」

    じゃあどうしてプリヨでは駄目だったのかとかいうような質問は範子には無意味だ。そんな質問を避ける準備をして来ている。ただ同情してくれる聴衆が必要なだけなのだ。家では彼女に反対を唱える人ばかりなのだろう。

    「だけど、私はジャハンギールを愛してないわ。ただ、友達と思っているだけよ。良い友達とね」

    こんなセリフはもうたくさんだ。前にインドで、プリヨについても同じことを聞かされた。

    「ジャハンギールにあなたたちのこと詳しく話してるわ。彼、あなたに会いに京都に来たいのよ」

    リサはこのジャハンギールに関する話を好まなかった。

    「彼女を勇気づけないでよ。一緒に寝る男が欲しいだけなんだから」

    と言った。

    「こんな愛がどうのこうのっていう話なんかもう飽き飽き。彼女、その意味が分かってるの?」

    リサは実際、シャンティニケタン時代からかなり変化した。

    July 04, 2007

    第11章(2)

    ジャスティンとリサが男たちについて話している間、シャンティニケタンでちょっとだけ会った男のことを思い出した。ルパ、つまり私の愛しいベンガル人の中国語の先生の父親だった。この男は、ずいぶん前ドイツで仏教哲学の博士号をとった。後になって、シャンティニケタンの中国学部の学部長になった。この数年は、台湾のある仏教大学で教えている。

    この男は中年になって土地の娘と結婚した。確かでないが、チットラディの性格を考えると、彼は彼女に誘惑されたという感じを受ける。ルパは、彼が40代もかなり過ぎてからチットラディとの間に生まれた子だ。

    家庭生活は明らかにこの男には合わなかった。欲求不満にさいなまれた不満足な妻と、一人でいることを学んだ寡黙な子供を後に残し、すぐにまたさまよい出た。

    チットラディやシャンティニケタンの他の人達から、この男について多くのことを聞くことになった。ルパは父親について話すのを避けた。彼女は個人的なことは何も話さない。しかし、彼女が父親のことを苛立たしく思いながらも彼に好意を持っていることははっきりしていた。

    この男が短い休暇でシャンティニケタンに帰ってきていると知った時、私とリサは彼を尋ねてみた。

    彼を見た瞬間好きになった。私自身の死んだ父親に少し似ていた。だけど違っていたのは、彼が神経質だったことだ。きちんとした挨拶を交わす前に、彼は仏教の「アッタ」とウパニシャドの「アートマン」について、そしてそれらの違いを最近書いた論文でいかに示したかについて話し出した。

    だがしばらくして、彼はリラックスしてきた。会話が進んでゆくと、全く動かぬ信念をもって、霊的なものを追求する喜びは、この世のどんな楽しみよりも100倍も素晴らしいはずだと言った。

    「先生、あなたは、そっちに向かって行っているのですか?」

    あまりに個人的なことだと十分知りながら尋ねた。しかし、誰かが私の死んだ父親に似ていると感じると、私はその人に何でも尋ねられるのだ。

    「私は気質的に学究肌の人間なのですよ。飛び込む勇気は持ったことはないが、しかしまもなく来るでしょう」

    彼は穏やかに答えた。

    この後、香港のある霊能者についての入り組んだ逸話を私達に話した。その話は私を混乱させた。かなり陳腐な話だったからだ。

    とにかく、また会い、これらのことをじっくり話すと決めた。リサは彼を食事に招待した。

    食事はついに実現しなかった。この男は次の日、ひどいマラリアに襲われ、シャンティニケタンを去るほとんど間際までベッドに寝たきりだったのである。

    先日、意気消沈していた時、私はリサに言った。

    「台湾に行って、あの男に会おう。あの男は知恵者だから」

    「そんなお金、どこにあるのよ。頑張って日本で父親を見つけなさい」

    July 03, 2007

    第11章(1)

    「インドのような国々では、人々は絶えず人生の崖っぷちに住んでいるようなものね。病気とか失業あるいは結婚させるべき娘とか。中流階級から容易にすべり落ちて、道で生活するようになる。オーストラリアでは、人はそれほど不安定に生きなくてもいいのよ。社会保障ってものがあるからね」

    ジャスティンはシドニーで人類学を専攻した。小説を書くのが彼女の夢である。

    「君の国では、政府が神の役を演じているってことだね?」

    私は穏やかに尋ねた。

    「人々が神の役を集団で演じているのよ」

    とジャスティンは言った。

    「そして、神の役が演じられるために市場を探し続けなければならないってわけね」

    リサには社会主義的傾向がある。

    「オーストラリアは、武器やコカコーラや馬鹿みたいな暴力映画は輸出しないわ」

    ジャスティンは反アメリカ主義者である。

    「ええ、だけどあなたたちは牛肉を輸出してるじゃない。日本で肉を食べ始めたのは、オーストラリアからの押しつけがましい牛肉輸出のせいだわ」

    リサは菜食主義なのだ。

    「過去40年にあなた達日本人の背が高くなり、強くなったのはそのおかげよ」

    「日本人が本当に背が高くなりたがっていたのかどうか、誰か聞いてみたことあるの? 肉食をするようになったおかげで日本人が薄っぺらになっちゃったわよ」

    「事を少し大げさにし過ぎているんじゃないの。もし、攻撃的な市場開発が今日の問題のすべてだというのなら、日本こそ第一番に告発されるべきだと思うけど」

    リサは電話に出るためにリビングルームを出て行った。ジャスティンは期待の目で私を見た。

    「日本の女と結婚してるからというだけで、私が日本の側に立って話すとは思わないでくれよ」

    と言った。

    「わかってるわ、だけど、あなたはいつもアジア人としてものを考えるでしょう? 白人はあなたたちの美しい文化を破壊したって」

    「僕は何も考えないよ。アーリア人が中央アジアのどこからかインドに下りて来て、その同じアーリア部族の他の人々がヨーロッパに上がって行ったという有力な説がある。だから僕は、5千年前インダス川流域にやって来て、そこの原住民を奴隷にした白人の子供かもしれないよ」

    「とにかく、食物を輸出することが罪であるはずがないわ。農夫が余剰物を売るのは自然なことよ。それだから、そのお金で別の必需品を買うことが出来る。私達は、世界を支配しようとかそんなことを考えるような人間じゃないわ」

    ジャスティンは愛国主義者であり、あくまでもオーストラリアの国旗を握っている。

    「物事全体がやり過ぎになるということはあると思う。その時、成長率の問題や景気後退や失業という妖怪が偏在するという問題が出始めるんだろうね」

    「じゃあ一体あなたは他にどんな道があると思うの?」

    「皆がその問を自問しているんじゃないのかい?」

    「はぐらかさないで、本当に知りたいの」

    「言えたらと思うけど、それは全くの不透明だよ。私はもっと多くのことを知る必要がある。むしろ糸口を掴み始める前に、もっと、もっと生きる必要がある。それでねジャスティン、私は恐いんだ、と言うのは、学べば学ぶほど興味という興味をすべて失ってしまうような気がするから」

    「あなたは物事を難しくしたいのね?」

    「ご名答」

    「魂の問題はどう? 宗教は?」

    「その二つは全く別物で、ほとんどその間に関係がない。ジャスティン、これははっきり言えるよ」

    「そうね、わかるわ。じゃあ魂についてだけ。それがこの世の問題を解決すると思う?」

    「ジャスティン、君はすごいよ。僕のことを高く評価してくれてるみたいだけど、後生だ、知らないんだよ。君と同じような普通の人間なんだ。たくさんの欲求を持っている。欲求とか疑いを」

    「彼はごく普通の男よ。そんな事柄について意見を求められると、とても困惑するの。男たちは絶対の確信を得るまでは、実際、何についても決して話すことが出来ないのよ。冗談で済ますか、黙るんだわ」

    リサはリビングに戻って来た。