Thinking Women

Written by Shashank Lele in 1994-5 Translated by Yoshida Mitsuko

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Location: 京都市, 京都府, Japan
  • 白蝶日記
  • Bengal Report
  • Plants in Ayurveda
  • June 24, 2007

    第10章(2)

    最近、さらに数人の日本の女たちと出会った。インド人仏教僧が大阪に来た。彼の英語は、彼を招いた日本人たちが手に負えるような種類のものではなかった。そこで私が2週間、彼の旅に同伴した。インドでは、こんな仕事はただ同然でしただろう。しかし日本では、何にでもお金を払ってくれる。単に私が日本人でないというだけで彼らはお金をくれるのだと時々感じる。

    この僧は一つの寺から別の寺へ、一つの町から別の町へと旅し、私は同伴した。彼は素朴な男だった。大きな剃った頭と、微笑む目を持った育ちすぎた赤ん坊のようだった。一緒に旅行中、インドの事柄について私と討論できるのを彼は喜んだ。彼は仏陀がこの世での旅程を終えたネパール国境近く、クシナガルという所の、貧乏で低いカーストの子供達のために募金集めに来ていた。彼はその子供達のために日本から金を求めていたし、大阪のインド総領事は、ひょんなことで私が参加していた会合で、インドの無職の若者達のために産業を起こす金を日本に求めた。

    誰もが日本から金を欲しがる。他の国々は乞うのであるが、アメリカは横柄な態度で要求する。

    この催し全体が自分の個人的な楽しみのためだけに準備されたと思っている日本人の坊さん連中の長はとても強烈な男である。彼の寺にいる僧たちはいつも緊張しているように見える。彼らは夕方になり、酒がふるまわれる時を常に待ち望んでいる。

    女たちに驚嘆せずにはいられない。彼女らは、この茶番劇を何か本当に良いことのように作り上げようとしている。この強烈な坊さんを大目に見る。夕方になり酒がふるまわれるのをひたすら待つ以外何もしない坊主たち全員をも大目に見るのである。

    私の出会った2人の女たちは、それまでの6ケ月間、このインド人僧侶の訪問を成功させようと力を注いでいた。日に20時間、日本人の几帳面さで働いていた。会合、訪問、演説のすべてが抜かりなく計画され、完璧なまでに下準備された。男たちは滑稽だった。新郎のように着飾り、役に立たない孔雀のように気どって歩き回るのだ。

    しかも、この男たちは派手なだけではない。いやらしくもなるのである。私の出会った2人の女たちは十分気をつけていなければならない。彼女たちのエネルギーの90パーセントほどが、この役に立たない有力な男たちの言うことに耳を傾け、話を合わせ、彼らの前であたかも13才の初な処女のように振る舞うことに費やされる。

    彼女たちは2人とも60近いのだが、この偉い坊さんは酒を繰り返し飲んだ後、何気なく彼女らの尻をつねる。この女たちは、私が起こっていることすべてを目撃しているのに気づいている。しかし、さほど当惑しているように見えない。私は、彼女らの目の端から時々漏れてくる視線を解読することができない。その目に痛みがあるのは確かだ。リサの父親がママの頭をぶった時、その目に見たものと同じ痛み。しかし、その目には、痛みに伴って、ある種の満足、ある種の達成感もある。それが理解できない。それは私を不安にする。

    「あなたのご主人可愛いわ」

    最後の日、彼女らの1人がリサに言った。

    私が出会った2人の女たちを思い出す時、マゾヒストとか殉教者というような言葉が心に浮かぶ。しかし、実際はもっと複雑である。あの2人の女たちは、とても親切であり、とても素朴である。彼女らが分からない。

    「何故、彼女らだけでこのチャリティー活動をやれないんだ。どっちみち実際の仕事は全部彼女たちがやってるんだろ。何故、あの好色な馬鹿者や寺組織からの支持が要するんだ?」

    とリサに尋ねた。

    「単独ですると、彼女たちがあまりにも目立ってしまうでしょ。そんなこと日本では誰もしないのよ」

    と、答えた。

    「だけどリサ、そうはいってもこの2週間に会った人達の中で、クシナガルの貧しい子供達や仏陀のことに本当に興味を持っているのは、あの2人の女たちだけだったよ」

    「それは重要でないの」

    「じゃあ金銭的な支持を得るためっていうことか?」

    私は引き下がらなかった。

    「部分的にはそうだと思うけど、でももしお金があったとしても、彼女たちだけですることは考えられないでしょうね。子供の時から教わってきたことに反するのよ、きっと」

    私達は、日本海近くの山のとても高い所にある仏教僧院に一夜泊まった。それは僧たちが修練を与えられる学校のようなものである。

    少し歩くたびに「訪問者はこの先に入ることを禁ずる」というような掲示のある場所が私は好きではない。夜中にトイレに行った時、すべてが全く静かで、ほんのわずかな明かりしかない中、私は息を殺した誰かの叫びを聞いた、息を殺してはいるが、静かな夜にかなりはっきりした叫び声だった。私は空想に耽りがちだが、その叫びは、若い男の子が男色家に強姦された時に発する叫びだと、私が想像するものにまさに一致するように思えた。

    「あなたのご主人、仏教僧院を訪れた後、とても疲れているように見えたけど大丈夫かしら」

    最後の日、女たちの1人がリサに言った。

    June 21, 2007

    第10章(1)

    範子は太った。1月から11キロ増えたそうだ。あまり外出しないらしい。日に14時間眠り、食べ、そして残りの時間考える。

    彼女は考え続けている。考えに考えている。その間に東京の男があきらめて、婚約を解消することに同意した。範子の両親は、彼が結婚のために払った結納金100万円を返した。そして慣習として、もう100万を違約金として払った。私は、この罰金を、今すぐは無理にしても時間をかけて、両親に負担をかけないためにも、範子が自分で支払うべきだと提案した。東京の男は容易に承知しただろう、と私もリサも推測した。それで罪の意識が少し軽くなるだろう、と範子に言った。しかし、彼女は私達の提案にいちいち首を振って頷くが、公約したり努力を要する事柄には滅多に腰を上げない。

    範子はプリヨも同じくキャンセルした。何故だろう? 何故だかあまり分からない。彼は、ボンベイ近くのリゾート地、カダラに仕事を見つけた。そして範子に、すべてを捨てて、インドに来るよう手紙を書いてきた。結婚して、永遠に幸せに暮らそうと。だが、範子は承諾しなかった。インドに住みたくないのだ。

    「1、2年後に、彼が私に飽きたらどうするの?」

    リサに言った。

    「それに、私の家族は絶対に外国人を受け入れないわ。はっきり言ってるの」

    ある日、範子はプリヨが彼女の決断を知った後に書いた手紙を見せに来た。

    「プリヨのベンガル語はとても難解なの、読むのにリサ子さんの助けがいるの」

    と電話で言った。

    手紙は典型的な類のもので、プリヨが日本製の車に飛び込んで自殺未遂をしたことが述べられていた。

    「何て悪い人間なの、ああ私って、何て悪い人間なの」

    リサが1行読むごとに範子は大声をあげた。

    「彼女は美しい悲劇のヒロインを演じているのよ、日本のテレビドラマにあるような」

    範子が去った後すぐリサは断言した。

    「何でそんなに確信があるんだ? メロドラマを演じるにも少しばかりの脳味噌がいるんだよ」

    と尋ねた。

    「彼女はあの手紙が読めるのよ、ほかの誰もが読めるようにね。ただ見せびらかしたかっただけなのよ。自分が拒絶したために、一人の男が自殺を企てようとするなんて、明らかに宣伝したいようなことでしょう」

    「でも彼が本当に自殺を企てたと思う?」

    「それはまた別の問題。とにかく、範子は日本では何者でもなかった。インドに行った後、自分が何らかの価値を持ち得ると悟ったの。私がバングラデシュに行った時、同じ様な経験をしたわ。向こうでは決まってお姫さまか何かみたいに扱われた。それがリサ子という私自身と何も関係がないと分かるのに時間はかからなかった。あそこの人達にとって日本はある意味で地上の楽園であり、その楽園出身のものは誰でも天使なのよね。このことが範子の頭に宿ったのよ。インドに行った後、東京のサラリーマンと結婚するなんてことは、わがヒロインにとってあまりにも精彩を欠くことになってしまたのよ、きっと」

    「ワカリマシタ。でも何故プリヨまでをキャンセルしたんだ? 大いなる冒険の幸福な結末じゃないか?」

    「プリヨとの結婚は混乱を招くのよ。彼は金持ちじゃないでしょ。日本に来ればただ普通の仕事に就くだけでしょう。範子の足はもう地にに着いていないの」

    「それではスサントが正しかった。範子はずるいんだ」

    「確かにそうだわ。ただ、前は控え目でもあった。自分の限界を知ってたしね。今は何が起こるか分からないわ。あの子、なんかおかしくなっちゃった」

    リサは一度ならず、女だからという理由だけで私が範子に興味を持っているのだろうと責めた。若い女というだけで。

    「彼女が男だったら、あなたは2日で彼女との会話に退屈してくるわ」

    それは全くの誤りではない。範子と2時間ぐらい話して過ごすと、疲れてくたくたになってしまう。範子の英語の聞き取り能力は乏しく、比喩的なことは全然理解出来ない。ゆっくり話さなければならず、100回と繰り返さなければならない。しかし、私は彼女に対する興味を失わない。彼女の訪問を楽しみにさえしているのだ。

    それについて考えた。リサは正しいかもしれない。胸に二つの乳房をつけている者なら誰でも私は我慢することができる。私は臆病なだけでなく、女好きでもあるのだ。

    June 16, 2007

    第9章(2)

    事件後、私達は京都の外人ハウスに移った。暴力が私を怖じ気づかせ、麻痺させたが、貧乏だからというだけで、何も起こらなかったように振る舞い続けることは出来ない。

    リサの父親は淋しい男である。誰のためにも尻を動かすことは出来ないが、皆に好いてもらいたい。ただ父親、あるいは夫だという理由だけで、あるいは単に男だという理由だけかもしれない。男は王であり、男は地球を所有する。男たちは淋しいのだ。

    京都のこの外人ハウスには女性の管理人がいる。彼女は男のように振る舞いたがる。非常に奇妙だ。つまりなぜかというと、彼女は私が今までに出会った中で、恐らく最も美しい女と言ってもいいからである。彼女は、外人ハウスの同居人全員を少年犯罪者のように扱う。

    私は彼女の誕生日にタバコを差し出した。それくらい自分で買えると彼女は即座に言った。夕方はそれほど機嫌が悪くないが、昼の12時より前は、外人ハウスで最も勇敢な人達でさえ、彼女の行く手を横切ろうとはしない。

    どこにでも掲示がしてある。トイレの使い方について、朝の時間にVCRを使ってはいけないことについて、自転車の駐輪について、台所用品の洗い方について、すべてについて。 一度、トニーがオーストラリアにいるガールフレンドから、朝、長距離電話を受けた。即座に掲示が現れた。その夕方、電話器の上のカレンダーに、きちんと押しピンで留められたのだ。

       悪い使用者へ
       朝の11時より前には電話をかけないようあなたの友達に言いなさい。
       皆が迷惑します。この家の人達は夜遅くまで仕事します。
       誰も朝、邪魔されたくありません。

    管理人は、掲示を書くのに大変忙しい。彼女の字は、日本人の誰もがそうであるように美しいが、英語は、やはり日本人の誰もがそうであるように上手くはない。彼女は、よく誰かへの腹立ちを部屋から部屋へ押しピンで留めてゆく。台所の台の上に洗ってないグラスが残されていたとか、誰もいない居間に扇風機がつけたままになっていたとかである。

    彼女は淋しいのだ。それを知るために精神医学者になる必要はない。ジョンが、彼女は定期的に男に抱かれる必要がある、それだけさ、と言っていた。リサはそんなに単純なことじゃないと言った。しかしリサは、何を言ってよいのか分からない時はいつでも、よくこう言うのだ。

    同じような何かが、リサの父親に必要である。だが、微笑みを、顔に唾を吐きつけて返すような男をいかに愛するのか。彼の場合はもう手遅れかもしれない。

    範子は京都に住んでいる。偶然の一致である。リサは、範子が日本で私達のことを避けるだろうと言っていた。なぜなら、私達がシャンティニケタンで彼女がしたことの証人だったからである。リサは間違っていた。私達が神戸にいた時は会いに来たし、定期的に電話してきた。京都では、ほとんど毎日会った。シャンティニケタンでのように。

    範子は淋しいのだ。結婚を取り消したことは、家族に永久の紛糾を巻き起こした。そして彼女にはほかに友達があるようには思えない。私とリサだけが個人的に話すことの出来る唯一の者なのだ。それに彼女は今たくさん話す必要がある。

    日本での数ケ月間に、私はこれまでの人生で出会ったよりも多くの淋しい人間達に出会った。

    第9章(1)

    日本で出会った大半の女たちは、考える女たちである。多分、考える以外の活動はすべて他人によってコントロールされているからだが、彼女らはかなり熱心に考えに耽る。

    誰もが自分の知識を金に変えるのに忙しいか、あるいは後で金に変えられる何かを学ぶのに忙しいこの国で、これらの女たちだけが私の唯一の望みだ。何も知らず、何も学ばず、母親たちが以前したと同じことを継続している。

    私は日本で窮屈な思いをしている。空間の問題だ。トイレは狭く、椅子は小さい、自動販売機の釣り銭が出てくる小さい穴に手を入れるのに苦労する。しかしここでは女の膣が広くて深い、あるアメリカ人が請け合った。

    リサの父親がママの頭をぶった日、私は震え上がった。私は暴力が怖い。スクリーンで見るのさえ、好きではない。あの男が彼女の髪を掴み、こたつに頭を打ちつけた時、私は恐怖のあまり麻痺した。私は暴力に反対だ。暴力が怖いのだ。そして時折、現場に居合わせると私の本能は逃げろという。意気地がないのだ。弱い者をかばいたいのだが、すっかり私は無力になって、本能的に暴力の現場から出来るだけはなれようとする。この場合、私は急いで立ち上がり台所に逃げた。

    リサの父親は野蛮な人間である。25年間彼を食べさせてきた50才の女をぶつことが出来るのだ。神経質な、やせ衰えた男である。ただ私が怒って怒鳴るだけで崩れてしまうだろう。しかし、私は行動しない。麻痺してしまうのだ。怖いのだ。暴力が私をびりびりに怖がらせるのだ。

    これまでの生涯ずっと、自分のこの意気地のなさを恥じてきた。それをうまく隠すために出来る限り暴力の現場を避けた。道や汽車で乱闘を見ると、いつでも軽蔑の目を向け、背を向けた。私が恐がっていることは自分だけが知っている。学校の時でも、喧嘩することが出来なかった。私より小さな少年が私を殴り、殴り返すよう挑まれても、出来なかった。

    こんな現場では私の臆病さが暴露される。知識も、知性も役にたたない。何が必要であるかというと、誰かが、娘婿の目の前で50才の妻をぶったこの痩せた神経症の男の首を掴み、思う存分揺さぶることである。しかし、そういったことは何もせずに、急いで立ち上がり台所に移動したのだ。

    かくして、現場には三人の女たち、私、リサと、涙を出さずに叫んでいるママ、そして一人の男がいる。痩せて、神経質での人生に何も残されていない中年男。暴力をつてに人生の藁にしがみついている男。使用済みのティシューほどにも役に立たない男。彼は、人間の大昔からの処方である暴力を手段に生き延びようとしている。

    私は暴力の起源について、すばらしい小論を書くことが出来る。すれて糸の見えるまで分析することが出来るが、それが起こるとどうにも出来ない。麻痺してしまうのだ。

    この事件が、私の眼鏡に新しいレンズを付けた。今は日本のあらゆるところに、抑制された怒りだけを見る。電車で毒々しいコミックを読んでいるサラリーマン達。中には黄緑がかったスーツを着ている者もいる。何という色! そして黄色いネクタイを締める。

    June 08, 2007

    第8章(2)

    リサは、今朝、範子から手紙を受け取った。範子は2週間前日本に帰り、私達みんなが首を長くして彼女からの近況報告を待っていたのだ。範子のことでは意見が完全に真っ二つに分かれた。半分は、範子が大阪国際空港で飛行機から降りて2分と経たないうちに、プリヨもシャンティニケタンも忘れてしまうだろうと主張し、残りの半分は、この可愛らしいカップルが結婚して残りの人生を幸福に暮らすのは必至だと信じていた。

    手紙は少し期待外れだった。日本に着いたあとすぐ、1月20日の結婚式の予定をキャンセルすると家族に宣言した、と範子は書いた。手紙には、この宣言に対しての父の反応、そして母の反応、そして姉の反応、そして兄の反応について長々と記述されていた。これらの反応は皆が予期していたことなので、その部分を飛ばして、先を読むようにリサに言った。一番興味ある反応は、この手紙を範子が書くほんの1日前に受け取ったばかりだという東京のサラリーマンのそれであった。

    手紙によると、範子が結婚をキャンセルしたいと知ってから、この男は彼女の両親に電話で次のように言ったらしい。「少し考える時間をあげてください。混乱してストレスがあるようです。1月20日の式はキャンセルして、彼女が回復するまで待ちましょう」

    それで、範子は再びジレンマに陥ったと書いてあった。それほど寛大で成熟した男を見捨てることも出来ないし、かといって、あれほど愛したプリヨを忘れることも出来ない。人生は地獄だと書いた。身近にいる者達をとひどく苦しめたことで自己嫌悪に陥った、自殺という考えが、今現在、彼女の心を離れないでいると書いてあった。

    「範子は文才があるわ。彼女がこんなに上手に書けるなんて思ってなかった」

    最後の行を読み終えた後、リサが批評した。

    「愛は凡人をも作家にすることが出来る」

    とスンヌが言った。

    「けど、公に結婚を取り消したいと言った後で、またどうやってその男と結婚することが考えられるんだ?」

    スサントは首をかしげた。

    「それにその男は、彼女がインドでしたことを知った後で、どうやって結婚したいと思えるんだ?」

    「彼女、プリヨのことは、誰にも言っていないの。ただ結婚したくないと言っているだけなの。それで家族が理解に苦しんでいるのよ」

    リサは説明を加えた。

    「その部分、読まなかったよ」

    「日本語から英語に訳すのは時間がかかるの。みんなすごく急いでいるんだもの」

    「だけど、今彼女にはいついつまでにこれを決めなきゃならないっていう期限はなくなったのね。そんな状況で何か決断するっていうのは、とても難しいことよ」

    私は規子ジュニアに感心する。英語のアクセントはひどいものだが、頭は明晰だ。

    「しかし、東京の男の身にもなってみろよ。そんなショックに耐えるのは簡単なことじゃない。彼に同情せずにはいられないよ」

    スサントは感じやすい。

    「範子のような女たちは人にショックを与えるだけさ、それが彼女らの運命なんだ」

    私はきっとやってくるに違いないリサの反応を扇動するようにこう言った。

    「あなたはこんな成りゆきの中で彼女自身、一生懸命我慢して、ストレスに耐えているってことが理解出来ないのよ」

    「自業自得だろ」

    「あなたにかかったら人生なんて単純なものなのね」

    June 04, 2007

    第8章(1)

    シャンティニケタンには新しい家が多すぎる。私は新しい家は好きではない。最新の建築や外装はまったく興味をそそらない。人が住み、料理し、洗濯し、愛し合い、そして子供ができて、喧嘩をし、病んで死ぬと、家は美しく見え始める。新しい家は、ショーウインドーに吊るされているドレスのようなものだ。少なくとも私には、誰かがそれを着てみるまで、どんなに良い服なのか決して分からない。

    こうしたシャンティニケタンの新しい家々はいつも閉め切られている。持ち主たちはクリスマス休暇になるとカルカッタからやって来るのだとアショクが言った。

    一人の老人が、私達の住んでいる小道にある新しい家の建設を監督している。日に何度も、その建築現場を通るので、よく挨拶や冗談を交わす。

    「シャンティニケタンは嫌いだ。地上でいちばん退屈な場所だ」

    ある日、この男は愚痴をこぼした。

    「ひどいもんだ。こんな穴にいては質のまともなパンさえ手に入らない」

    と言った。

    おもしろい。何ケ月も過ごしている間、少なくとも日に10回以上は、シャンティニケタンがどれほど素晴らしいか、ということをいやでも耳にしなければならなかったが、誰かがひどい所だと思っているのを知って気分が新たになった。

    パンのことでは、全く同感である。

    「パンだけじゃない、この場所に一体何があるんだ? 新聞は昼食時まで来ないし、まともなレストランだってほとんどない。皆どうやって生活しているのか想像できん。それに、日中ほとんど道に人気がない」

    言いたいことは分かる。ここ、アンドリゥースパリは、大学の建物のガヤガヤから少し離れてかなり静かである。

    彼はカルカッタ出身の退職した鉄道員だった。カリフォルニアの大学で教授をしている彼の娘が、私達の小道のこの見苦しい構造物の注文主だった。彼女は年の始めにやって来て、この計画を彼に託したのである。かわいそうな老父はセメントを買い、怠けることと不正直なことにかけては世界中で苦もなく一番になれるであろうこの労働者達を監視するという厄介に直面させられている。

    「家内はそんなことに興味を持っておったな」

    私がラビンドラ サンギート(タゴール・ソング)に興味があるかどうか尋ねた時言った。

    「わしは仕事というものを信じる。38年鉄道に奉公して、いいかね、だんな、たった一日の病欠もないんだ。ここの人達は働きたくない。だけど誰かが働かなくてはならんだろう? 誰かが水を供給しなければならないし、発電所を動かさなければならない。そうであって初めてここの人達が一日中歌ったり、踊ったり、絵を描いたりできるんだ」

    「サンタル族の人たちは、池から自分達の水をとり、電気も必要ないようですよ」

    不本意ながら言った。

    「それならサンタル族のように住みなされ。それに異議はない。私の娘は、この家を『サンニャース(捨離)』と呼びたいそうだ。サフランっぽい色(出家を象徴するオレンジ色)で塗るように頼んできた。いいかね、だんな、100万ルピーも使って家を建て、それを『捨離』と名付けたいんだよ」

    「恐らく彼女はここに住みに来る時、アメリカを捨てるという意味なんでしょう」

    「すべて無意味だ。アメリカに行った者は誰も帰って来たことがない。皆帰ってきたいんだが、永遠に延ばし続けるんだ」